神埼探偵事務所
その時の事を今まで一切、思い出さなかった理由──それは、門を出て少し歩いていた時に起こった事が原因だった。
大河との帰宅途中の道に有る、小さい公園。春は桜で秋は紅葉で満開になる、滑り台とブランコしか無い子供向けの公園。
そこで……私は出会ってしまったのだ。後にサイコパスとなる、あの人に。
「おじさん?1人で何してるの?」
缶コーヒーを片手に、紺色のスーツをバチっと着こなした見た感じからして裕福そうな紳士が公園のベンチで1人涙を流していたのを見て、何を思ったのか子供の好奇心と云うのは怖いもので……私から話しかけた事が全ての発端であった。
「……え?」
「どうして泣いてるの?ママに怒られたの?それか、桜がキレイだから泣いてるの?」
「………。」
「おじさんは、桜が好きなの?」
「ああ、好きだよ。」
悲しそうに…
でも何処か優しそうにそう微笑んだ紳士。
「そうなんだ、じゃあおじさんにだけ特別に見せてあげるね。ほら、コレ見て?すごいでしょ?」
手提げ袋の中に入れてあった自由帳を取り出して、最初のページを開くと、そこには入学式前に完成させた切り絵があった。
「凄いね…これ、君がしたの?」
「うん。パパに桜の花びらの写真を貰って、それと同じ形に折り紙を切ったんだよ!凄いでしょ?」
「これは学校の前に有る桜で、これは枝垂れ桜って言う別の種類の桜なの!」
「……桜の花びら、好きなんだね。」
「うん、私の幼馴染はね、とても面倒くさい感じだけど……でも賢いから、こうやって名札は裏にしてから学校をでろって言うの。」
「でもおじさんにだけ特別に教えてあげる、私が桜の花びらを好きなのは…私の名前が❝サクラ❞だからだよ!」