にびいろのなかのひかり 鈍色の中の光

海に着いても

まだ少し辺りが明るかった




久しぶりに聞いた波の音


懐かしい場所



「まだお母さんが生きてた時
ここの海によく連れてきてくれた

お父さんの働いてるところ
この海でつながってるんだよって

それでお母さんが亡くなってから
お父さんがここに連れてきてくれて

この空の向こうにお母さんいるんだよ
遥のこと、見守ってるよって

3人で、来たかった…

その時、思った

車の免許取ってから
ひとりでここに来て…
ここにいると3人つながってる気がした

でも、ひとりだった…
それから、ずっと来てなかった

今日、原さんと来れてよかった

お母さん、見てるかな…」



私は空を見上げた


下を見たら涙が溢れそうだったから




「お母さん見てたら…
不安にならないかな…」



「え…」



「隣に、オレなんかがいて…
もっとしっかりしてて…
もっと…」




「原さん…
原さんのいいところ
私、いっぱい知ってます
だから、大丈夫…

私しか、知らない、いいところ…」




原さんは黙って歩いた


波の音だけした



原さんの伸びた髪が風でなびいた

痩せてて少し猫背で

広い背中



私は黙って
後ろから原さんの手を握った



私は、原さんがいい…



原さんが私を見た



原さんの手は

私の手からすり抜けた



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