にびいろのなかのひかり 鈍色の中の光

「オレ、手、汚いから…
美波さんの綺麗な手、汚れると…」



「汚くない!」



汚くない

原さんの手は



一生懸命、仕事をしてる手



大きい手

硬くなった指先

油で汚れて黒くなった爪

厚い掌



お父さんと同じ手だもん



「原さんの手、汚くないですよ…

心だって…
すごく綺麗な人

いつも控えめで
相手のこと考えてて

自分に自信がなくて
欲もなくて

それは全部
原さんの優しさで

ずっと、いろんなこと我慢してたんでしょ…

そんな原さんが放っておけなかった」



原さんは立ち止まって何も言わなかった



空が暗くなってきて

原さんの表情はわからなかった



「私、原さんの、手、好きです…」



私はまた

原さんの手を握った



「原さんのことも、好きです…

だから…お母さんに見せたかった」



原さんは黙ってたけど

今度は、私の手をすり抜けなかった



空を見上げたら

星が出てた



お母さんが

微笑んで



見てる気がした




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