にびいろのなかのひかり 鈍色の中の光

「いただきます」


先生が玉子焼きに箸を付けた



「うん、おいしい!
美波さん、料理うまいの?」



「うまいかはわからないですけど
中学の時から、ずっと作ってます」



「…へー、中学の時…から?」



「はい…
いただきます」



先生に聞かれたくなかったから

それ以上、言わなかった




「お味噌汁、しょっぱくないですか?」



「うん、ちょうどいい」





先生、箸の持ち方…




箸の持ち方がちゃんとできてる人は

ちゃんと親に育てられた人




また
私の勝手な偏見だけど




「先生、箸、ちゃんと持てないんですね…」


この前
焼き魚定食食べてた時も気になった




ご両親がお医者さんて聞いてたから
育ちもいいだろうし

裕福な家庭で育って



勉強もできて

背も高いし

顔は好みの問題だけど
一応イケメンて言われてる



何ひとつ不自由なく

育ったんだろうけど




「あー、うん
大人になってから人に言われたけど
直せなかった」



「子供の頃は…?」



「オレさ
ほとんど家族で食事したことないんだ

両親忙しくて…
兄がいたけど
帰ってくる時間も違ったから
それぞれ食べてた
だいたい、ひとりだったから…

今もひとりだけどね…

だからいつも美波さんご飯に誘うんだ
誰かと、食べたい…

ありがとう、来てくれて…」



両親いても

お金があっても



不憫なことって、あるんだ…





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