君との想い出が風に乗って消えても(長編・旧)



 胸の奥で何かが……。


 ……ごめんね……一輪の花さんにこんなことを訊いても困ってしまうよね……。



「一輪の花さん……今年も歌わせてね……」


 僕は、そう言って毎年、一輪の花が咲いたときに歌っている歌を歌った。


 曲名も知らない。

 でも美しくて少しだけ切なさも感じる歌……。


 僕は心を込めてその歌を歌う……。


 僕の歌声が秘密の場所全体に響き渡る。


 そして僕の歌声が春のやさしい風と共にやさしく流れる。


 その僕の歌声に、一輪の花やたくさんの草花たちが一緒に合わせてくれているように見える。


 今年もこうして一輪の花やたくさんの草花たちに僕の歌を聴いてもらっている。


 ……ただ……。


 やっぱり今年は違う……。


 昨年までは歌を歌わせてもらっているとき、僕はとても幸せな気持ちになった。


 でも今年は……。


 今年は……辛い……。


 辛くて辛くて……。


 苦しくて苦しくて……。


 ……切なくて……。


 ……涙が止まらない……。


 悲しいよ……。


 なぜかわからないけど……。


< 228 / 239 >

この作品をシェア

pagetop