君との想い出が風に乗って消えても(長編・旧)
僕は、さっきよりも胸の鼓動が激しくなっていることがはっきりわかった。
そして頬も熱くなっている。
花咲さんが僕の隣の席に座ったのだから僕は、挨拶くらいはしないといけないと思うのだけど、その気持ちとは正反対に全く声が出ない。
このままでは花咲さんに挨拶もできないのかと思われてしまう……そう思ったそのとき……。
「草野くん」
花咲さんが僕の名前を呼んだ。
僕は、まだ声が出なかった。
「わからないことがあったら教えてね」
そう言ってやさしく微笑む、花咲さん。
「……うん……」
僕は、ようやく声を出すことができた。
「僕は草野優、よろしくね」
やっと挨拶もすることができた。
「こちらこそよろしくね」
花咲さんの笑顔。
それは天使のような笑顔。
僕は、その天使のような笑顔の花咲さんの笑顔に見とれていた。