浅葱色の約束。─番外編─
その肩に腕を回すよりも先に、梓はふっと顔を上げた。
言葉にしろ、言え。
なんでもいいから弱音を吐け。
お前はもう男じゃなければガキでもない、
1人の女なんだよ。
もう我慢なんかする必要もねえんだよ。
お前はもう、俺に守られていりゃあいいんだ。
「こわかった……っ」
土方さん、土方さん───…。
絞り出すような声、糸が切れたように瞳からはポロポロと雫が落ちる。
何度もそう言う梓がいま目の前に見ている情景は。
男に無理矢理犯されそうになる光景と交えるように、かつて駆け抜けた戦場を見ているようだった。
「ひじかたさんっ、こわかった、こわかった…っ」
そんな言葉、今まで1度も言ったことがなかった。
仲間の死を何度も前にして、銃弾の飛び交うなか必死に走って。
絶望に涙を流すことはあったが。
「銃も…っ、刀も、怖かった……っ」
「───…」
いま俺の目の前には少し幼い女がいる。
地味な袴を着て、短い髪を揺らして。
懸命に走っていた“少年”とも“青年”とも呼ばれていた女が。