浅葱色の約束。─番外編─
「お前がちゃんと話せって言ってくれなかったら、俺はまた最低な奴で終わってたんだろうな」
あのときはもう、全然意味が分からなくて。
それでも多恵さんの哀しさの中にある諦めを見てしまったら、あのままじゃ駄目だと思った。
体が勝手に動いてた。
だから、これは意地悪。
「私は君菊さんの息子だったから…」
「…悪かった。あれは適当だ」
「…余計ひどいよ…」
複雑そうな顔をして、だけどちゃんと反省しているこの人を見るのは少しだけ面白い。
「…あのね、」
沈黙が起こりそうで起こらない、そんな静かな空気は少しだけ緊張する。
「私ね、……殴られ屋だったの」
みんなのストレスを受ける役目。
どうせ親の居ない身だから、PTAも何もないからって男も女も容赦なかった。
「…なんつう胸糞悪い名前だ」
「ふふっ、本当にその通りだったんだよ」
「馬鹿、笑えねえよ」
踞って、頭だけは守って。
蹴られて叩かれて殴られて。
歯を食い縛って、「今日はいつ終わるのかなぁ」なんて、ずっと考えて。
私はいつもそれを受けてた。