浅葱色の約束。─番外編─
「た、ただいま…」
やっぱりその人は机で筆を取っていた。
変わらないその姿が、本当にかつての副長に見えてしまって。
また胸がトクンと跳ねた。
そんな私の声に肩を揺らし、彼は筆を置く。
「おかえり。随分と早い帰り───…」
振り向いた言葉は止まる。
私を捉えた瞬間、綺麗に停止するものだから。そうして目を見開いているわけで。
そんな視線が見れず、逸らしてしまったのは私。
「お、お化粧してもらったの、近所の人に連れられたお茶屋さんでね……巧者の化粧師さんがいるからって…」
「………おう」
え、それだけ…と思ってしまったけど。
彼は口元を手で隠す仕草をすると、少し照れたように視線を逸らした。
「へ、変かな…」
「…いや」
「まだ私にはこういうのはやっぱり早いよね…」
「…いや」
また沈黙が流れた。
すごく恥ずかしい。
いつもの土方さんらしくない。
「似合っている」とは言ってくれなくても。
可愛い…とか言ってくれないかなって、期待していた部分もあった。
………言ってくれない。