浅葱色の約束。─番外編─
「かあちゃんごめん。おれ、お魚落としちゃった…」
しゅんと項垂れる少年を女は優しく見つめる。
びいだまが転がっちゃって、思わず追いかけて。
そしたらとうちゃんが来て。
一通り説明し終わると、母の隣に居た父が悪戯に笑った。
「どっかで見た光景じゃねえか」
「…もう、からかわないで」
「血は争えねえな」
ぷくっと膨らませ、少女のように拗ねる女。
その唇には夕日だけでは無い色が追加されていて。
じっと2人を見つめていると、母親の首元にかかる浅葱色が一瞬キラッと反射したように見えた。
ふと、母親は息子の膝を発見。
「転んだの…?怪我してる」
「こんなの痛くもなんともないよ」
「隠したって駄目。お母さんには全部わかるんだよ。…本当は痛いくせに無理しちゃって」
ふふっと女は笑う。
かあちゃんはとうちゃんをすごい人って言うけど、おれはかあちゃんもすごい人だと思った。
なんでも分かってしまうから。
「どうしてわかるの?」と、少年が聞いてみれば。
「私もそうだったから」
笑って答えた母親の手は、あったかい。
パタパタと襖の先へ駆けて行く妻を見つめ───
「お前も中々に親馬鹿だぞ」
と、呟いた夫。
そんな父のまた違う柔らかさを含んだ顔を見るのは初めてだった。