浅葱色の約束。─番外編─
どうしよう、ここで本名を言ってしまえば色んな意味で困惑させてしまう。
だって私は男として生きていた。
女だと見破られてしまったのは沖田さんと朔太郎だけの……はず。
「わ、私は…時折 梓の……姉の、茜です」
「…よく似ているな。それなら梓のことも幾分か知ってはいるのか」
「は、はい…。江戸で元気に暮らしてるそうです」
やっぱりどこかに罪悪感はあった。
そして「茜」と、母の名を使ってしまった…。
「───…そうか。よかった」
斎藤さんはホッとしたように笑った。
新撰組に居たとき、そこまで個人的に接点は無かった。
いつも寡黙で冷静で静かな人というイメージで、沖田さんのように私に話しかけてくれる人でもなくて。
それでも分からないことがあれば静かに答えてくれるような、そんな人。
「おい、お前……斎藤か…?」
「副長…!!」
「斎藤じゃねえか!なんだ、来るなら文くらい寄越せってんだよ」
玄関から顔を出した土方さんは、すぐに気がついて駆け寄ってくる。
それから斎藤さんを部屋に上げるまで時間は取らなかった。