忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
出逢い ~高校時代~
入学してすぐに気になりはじめた彼は、背が高くて沢山の人混みのなかでも目立つ方だったと思う。大きくて少したれぎみの目はその身長からかもしだす大人っぽい雰囲気とは不釣り合いにも見えた。



         ※



何もかも初めてでキラキラ輝いていた入学式当日、一番気になるのはやはりクラス分け。

高校生活のスタートを占うその掲示板を幼なじみの唯と一緒に見に来ていた。

保育園、小学校、中学校とずっと一緒の唯とは、初恋も親子げんかもどんな些細なことも全て話してきた。
目がクルクルと大きく、鼻筋が通っていて小顔、背の高い彼女は、もしかしてハーフ?と思わせるような容姿端麗でショートカットがよく似合う美少女。でも実際は両親とも日本人、ハーフでも何でもない。物事をはっきりと言うけどきつく感じない、それが唯の魅力でもある。


「ちょっと~はよ~はよぉ~!」
緊張のあまり足が進まない私の背中をグイグイと押しながら歩く唯。
「うっ…うん」
うつむきがちに答える
「早く行かんと!みぃは見えんかもしれんよ!!」
唯が指差す方を見ると、クラス分けが貼ってある低めの掲示板の回りには沢山の新入生が集まっていた。確かにあれじゃぁ ちびっこの私には見たくても見えないかも…

案の定人だかりで掲示板は木製の屋根しか見えなかった。
それだけでは無く、もともと見る勇気も無かった。


人見知りの私は中学時代、幼なじみの長瀬唯、そして中学1年生で同じクラス、同じテニス部だった本岡亜紀といつも一緒に過ごしていた。たまたまこの二人とは三年間同じクラス。容姿端麗な美少女の唯に負けず劣らず、健康的に日焼けして明るく朗らか、切れ長の二重と笑ったときにのぞく八重歯が可愛い健康的美少女の亜紀。その明るく朗らかな性格で女子にも男子にも、先輩にも後輩にもとても人気があった。そんな美少女二人に守られながら過ごす、地味で147センチというおチビな私は二人の引き立て役にもなっていなかったと思う。唯のクルクルと大きな目も、亜紀の切れ長の二重も羨ましく思う、細くて一重の私。写真を撮るたびに「みぃ~目、ちゃんとあけて!」と言われたり、真面目に授業を受けているのに「後藤!寝るなよ!!」と先生に叱られたりしていた。コンプレックスは低い身長と細い目…。だからこそ、背が高くて大きくて少したれぎみの目をした彼に心が引かれたのかもしれない。


「あぁ、もぉ、うちはええけぇ…二人とクラス別れたらどぉしたらええかわからんけぇ…唯が見て!唯なら背が高いけぇ見えるじゃろ?!」と震える声で言った。その時…
(いっ、痛ぁ!)
私の足先を驚くほど大きい足が踏んづけた。
「あ…ごめんな。」と大きな影が振り向く。


それとほぼ同時に
「あぁ、ごめんごめん。私が押しのけたけぇ。」
その大きな影の後ろから両手を顔の前であわせ申し訳なさそうに亜紀がひょっこりと顔を出す。

「大丈夫?俺、でかいけん重かったじゃろ。」少し腰をかがめながら大きく垂れぎみの目を申し訳なさそうに歪め覗き込む。

「あっ えっ あぁ」
と、しどろもどろで返事が上手くできなかった。
(どぉしよぉ… 大丈夫ですって言わないと…)
とあたふたしていたろころ、亜紀にがっしりと両肩を捕まれて強くゆすぶられた。
「…へぇ?」
そんな変な返事を漏らしポカーンとしていると。
「みぃ~!同じ!私同じ!1組!!」
亜紀が大ハシャギしながら言う。
「あっ!そぉなん?じゃぁ私は?」
期待した顔で自分を指差し亜紀に詰め寄る唯。
「んー…残念ながら。唯は5組。離れちゃったぁ」
肩を落としてそう言う亜紀。すぐに
「まぁ、みぃは心配じゃけど、唯なら一人でも大丈夫じゃろ?!気も強いしなぁ(笑)」
ニヤニヤと嫌みを込めて言う亜紀に殴りかかる真似をする唯。 
「まぁ、まぁ」と仲裁に入る私。

「クスッ」

頭の上で笑いが漏れる。
見上げるとさっきの男の子が三人のやり取りをまだ見ていたようだった。
そして
「…唯。長瀬唯?」と、呟いた。

唯は首をかしげながら「はぁ、はい」と答える。
「へ?唯知り合いなん?」
亜紀はその男の子と唯の顔を代わる代わる見ながら不思議そうにたずねた。
「あぁ、いや、名簿で、今初めて。同じクラスだったけぇ。俺も5組。永井、永井光。ながい・ながせ で出席番号続いとる。」
そう物腰の優しい話し方でその男の子は言った。
なんと言うか…目が離せなかった。目が奪われて?そうなのかな…瞬きもしていなかったかもしれない。
それが彼との初めての出逢い。

「よろしく」
「こちらこそ よろしく」
そう言い合う彼と唯の声が耳の奥でこだました。

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