忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
「いつもお世話になっています」
同じチームの保護者の方々に丁寧に挨拶をしてから、皆さんの邪魔にならないように端の方で応援をはじめる。
ふと、向こうのベンチの方を見ると永井くんと妹さん(?)が腕を組んで歩いているのが見えた。兄妹にしては仲が良すぎるように見えたが、年が離れているからそんなもんか…と自分と健のことを思い、はたからみるとあんな感じかもしれない…と考えた。いや…うちらは親子にしか見えんかもな…と自虐的に考え苦笑いした。

「おはよう、未来ちゃん。」
気さくに声をかけてくれたのは弟と同じ学年でセカンドを守っている木下剛くんのお母さんだった。弟と剛くんは親友で、剛くんのご両親はいつも私達を気遣ってくれている。

「おはようございます。木下さん。」

「さっきはボール当たったかと思って心配したわ」木下さんが私の肩をさすりながら心配そうに話しかけてくれた。…でも、すぐにその表情がニヤリと含み笑いに変わり
「ところで…未来ちゃん、背の高いイケメンに助けてもらってなかった?!」
少し小声でたずねてくる。

「あっあれは、偶然高校時代の同級生が通りかかって…助けてもらったんです。」

「へぇ~同級生なぁ…その人保護者じゃぁなかろうけん…誰かのお兄さん?それともコーチ?で、独身なん?」

木下さんに次々と質問をされてしまい、ドギマギしてしまった。

「あの…多分独身なんかなぁ…とは思うんですけど、コーチかどうかは…。あっ、でも、マネージャーさんにお兄ちゃんって呼ばれてて、マネージャーさんのご家族なのかなぁと…」

「ふぅ~ん、独身なん?!独身!」

木下さんは独身という部分だけに反応してニヤニヤしている。

「はぁ…多分ですけど…」
吹き出してきた汗を手の甲で拭いながらボソボソと答える。

「未来ちゃんもねぇ~そろそろ結婚とか考えてもええと思うんよ~健だってもぉ高校卒業の年なんじゃし、自分の幸せ考えてもバチは当たらんで!」

私の耳元でヒソヒソと話し始める木下さん。心配してくれているのは良くわかるのだけれど、もともと恋愛話しは苦手だし、自分から自分のことを話すのも苦手で…

「あっ!ほら木下さん、剛くんがヒット打ちましたよ!」

話をそらした…

「ありゃぁ~剛!! はよぉ走らんと!」

木下さんは二塁を蹴って三塁に向かう剛くんに向かって大きな声をかける。
剛くんはスライディングをしてセーフ。三塁打になった。木下さんはおおはしゃぎをしていて、気持ちが試合の方に集中したことで私の恋愛話しはそこでストップした。少しホッとして私も試合の応援に集中した。
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