忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
車に乗り、球場へと急ぐ。

「懐かしいなぁ…」

球場が見えたときそう呟いた。
いろんな思い出がよみがえる。

達也くんが怪我したこと
永井くんと病院に行ったこと

達也くんと別れた時のこと
唯のホントの気持ちを知った時のこと



「…うち、達也くんと唯を傷つけた…」

「うん。」

「でも…うち…」

「達也が言っとった。…15年。俺らの15年は忘れるためにも、始めるためにも必要な時間だった、って。」


「忘れるための時間…始めるための時間…。」

「そう、俺たち、ここから始めよう!さぁ、着いたで。俺のこと考えて欲しいけど、今日は健の大事な日じゃけぇな。」
駐車場に車を停めそう言うとまたサッとかすめるようにキスをして車から降りる永井くん。

永井くんの言葉とキスに胸がいっぱいで動けない。

助手席のドアを開けて「さぁ、応援行こうで!お姫様!」
そう言って手を差し出してくれる永井くんが眩しい。

こんな日が来るなんて…

「ありがとう…光くん。」

永井くんの手を取り勇気を出して名前を呼ぶ。

「反則の可愛さ!球場じゃなかったら抱きしめとる!」
顔を真っ赤にして言う光くんこそ反則!

二人ニヤニヤしながらほどよい距離を保ちながら並んで歩き始めた。


「何かあった感じ?あやしいなぁ!」

後ろから冷やかすような声が聞こえ振り向く。

「達也くん!」

「達也!」

「おはよう!俺も応援来てみた。それと…会わせたい人連れてきた。」

ふくんだような笑顔でそう言う達也くんの後ろからひょっこり顔を出したのは…

「ゆっ、唯!」

思いがけない人の登場に目を見張る。


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