忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 光side

「久しぶり!」
元気な屈託の無い笑顔でそう言う唯は高校時代と変わらない感じだった。
相変わらずキレイで背筋をピンと伸ばして立っている。

「おっ、おお。久しぶり!」
そう言いながら何となく未来を背中に隠すようにした。

高校時代、達也と未来、唯との間にあったことを察していた。

調理室でのあの出来事の後、達也に「もう練習にもどれ」と言われしばらく調理室に座り込んでいたがどうしても後藤さんの事が気になり、追いかけた。
そして…聞いてしまった

「うち、一年生の時からずっと、ずっと達也の事が好きだった!でも、達也がみぃのこと好きなの知って…それでもあきらめきれずに誰にも言わずに…ずっとずっと好きだった。達也と、みぃが付き合うことになって、二人が幸せならそれでええって…それでも好きで…苦しゅうて…」
そう振り絞るように言う唯の声を…

「ひどい!ほんまに!許せん!許さんけぇ!」そう言ってラケットを投げつけるところも見てしまった。

その後の達也と後藤さんの姿が見ていられず、俺はそこから逃げ出した。

その後二人は別れて…調理室での出来事が原因だろう…そしてこの三人のやり取りも…

その思いがあの日からずっと頭にあった。


卒業後、達也と同じように唯も皆の前からプツリと姿を消してしまっていた。



だから…唯が未来に何かするとは思えないが、唯を見て未来が動揺するのは想像するまでもない。 嫌なことから守りたい気持ちで背中に隠した。



「そんな警戒せんでもええで~俺らも未来ちゃんの弟くんの応援きただけじゃけぇ~」
達也が軽い感じて言う。

俺のTシャツの背中をきつく握る小さな手が震えているのがわかる。

「みぃ…ごめんな、今まで連絡せんで」
唯が俺の後ろを覗き込むようにして申し訳なさそうに言う。


「元気…だった?」
俺の後ろから出てきて震える声で未来が言う。

「感動の再会のところ申し分け無いんじゃけど、未来ちゃん時間大丈夫?保護者は早めに集まるんじゃろ?」

達也の言葉に俺と未来はハッとして顔を見合わせる。

「さぁ、行った行った!話しは試合の後で!」そう言いながら達也に背中を押されて走り出す。

未来が少し名残惜しそうに後ろを振り返ると

「先に言っとくわ~俺ら結婚するんよ!9月に!」

大声で達也が言うから俺も思わず後ろを振り返る。

自慢げに叫ぶ達也の横で顔を真っ赤にして達也の背中をグーで叩く唯。幸せそうな二人の姿が見えた。

「えっ…どう言うこと?」
二人で顔を見合わせる。
「あいつら~時間まずいわ、未来、急ごう!! 後できつく尋問じゃ!」

とりあえず二人に手を振ってチーム応援団集合場所に急いだ。
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