忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
# 光side
# 光side
昨日「明日弟の試合なんよ」と言っているのは聞こえたけど、まさか対戦相手だとは、まさか野球をしていたと思っておらず、また会えるなんて思っていなかったから本当に驚いた。
ボールが後藤さんに向かって飛んできた時には無我夢中で体が勝手に動いた。助けることができてホッとしたけれど、思わず抱きしめてしまったことに少し動揺している。細くて小さい後藤さんの体は抱きしめるとすっぽりと自分のからだの中に入ってしまって、もろく、すぐに折れてしまいそうな後藤さんをこのまま離したくない、自分が守りたい…そんな思いが一瞬頭をよぎった。実際後藤さんの弟が手を引いて離すまで両手で肩を抱いたままだった…。
「何考えとん…俺」と呟きながら頭を横にブンブンとふる。
「お兄ちゃん?」
ユリに声をかけられてハッとする。
「可愛らしい人じゃったね、あの人。」
自分のチームのベンチに向けて歩いている後藤さんと弟くん二人の後ろ姿を見ながらユリが言う。
「あの人…この前の練習試合の時、得点ボードの横に立っとる私に 暑い中頑張っとるからって、塩分チャージのタブレットくれたんよ。それから、その弟さん、今朝私がヘルメット運ぶ途中でケースのひもがちぎれて運びにくそうにしとったら 大丈夫ですか?って声かけてくれてサッとそのケース肩にかついで運んでくれた人なんよ…。」
そう嬉しそうに話すユリの頬が少し赤らんでいた。
「あぁ、そーだったんじゃなぁ」
そうこたえながら、後藤さんとそのご家族らしいエピソードだと思った。後藤さんに似て弟くんも優しい子なんだろうなぁ…と納得した。
「ほんま、素敵な人らじゃわ。…で、お兄ちゃん知り合いじゃったん?仲良しなん?あの人と」
俺の腕に自分の腕を巻き付けるようにしてニコニコ話しかけるユリ…
「いやぁ…高校の時の同級生で、たまたま昨日同窓会の役員会で会っただけ。久しぶりにな…」
ユリの腕をふりほどこうとしながら歩くが、ユリはまだ腕をきつく巻き付けながら食い下がる。
「あんな優しい子、うちのチームにはおらんと思うんよ~なんか、優しいって言うか、紳士的言うか~気遣いができる言うか…笑った顔も素敵じゃと思わん?!」
どうやらユリの興味は弟くんの方にあるようで何となくホッとした。
「後藤さんとは今そんな連絡とかとれんけぇあんまり期待すんなよ。」
やっと腕をふりほどき、ユリの頭をポンポンとたたきながら言った。
「なんだぁ~残念。お兄ちゃん役にたたんわ~ホンマ」ぷくっとほっぺたを膨らませながら言うユリを可愛いなぁ…と思う。
「じゃあ、うち今日も得点ボード係じゃから」ヒラヒラと手をふりながら一塁側ベンチサイドにある得点ボードのところに走って行った。
ユリがマネージャーをする野球部の試合を見に来るのは初めてだ。自分自身、野球からはしばらく遠ざかっていたし…。
ユリが野球部のマネージャーをすると言い出したときには正直戸惑った。達也があんなことになったのだから、野球になど関わりたくないと思っていると勝手に思い込んでいたから。
ユリは達也の妹だ。
昨日「明日弟の試合なんよ」と言っているのは聞こえたけど、まさか対戦相手だとは、まさか野球をしていたと思っておらず、また会えるなんて思っていなかったから本当に驚いた。
ボールが後藤さんに向かって飛んできた時には無我夢中で体が勝手に動いた。助けることができてホッとしたけれど、思わず抱きしめてしまったことに少し動揺している。細くて小さい後藤さんの体は抱きしめるとすっぽりと自分のからだの中に入ってしまって、もろく、すぐに折れてしまいそうな後藤さんをこのまま離したくない、自分が守りたい…そんな思いが一瞬頭をよぎった。実際後藤さんの弟が手を引いて離すまで両手で肩を抱いたままだった…。
「何考えとん…俺」と呟きながら頭を横にブンブンとふる。
「お兄ちゃん?」
ユリに声をかけられてハッとする。
「可愛らしい人じゃったね、あの人。」
自分のチームのベンチに向けて歩いている後藤さんと弟くん二人の後ろ姿を見ながらユリが言う。
「あの人…この前の練習試合の時、得点ボードの横に立っとる私に 暑い中頑張っとるからって、塩分チャージのタブレットくれたんよ。それから、その弟さん、今朝私がヘルメット運ぶ途中でケースのひもがちぎれて運びにくそうにしとったら 大丈夫ですか?って声かけてくれてサッとそのケース肩にかついで運んでくれた人なんよ…。」
そう嬉しそうに話すユリの頬が少し赤らんでいた。
「あぁ、そーだったんじゃなぁ」
そうこたえながら、後藤さんとそのご家族らしいエピソードだと思った。後藤さんに似て弟くんも優しい子なんだろうなぁ…と納得した。
「ほんま、素敵な人らじゃわ。…で、お兄ちゃん知り合いじゃったん?仲良しなん?あの人と」
俺の腕に自分の腕を巻き付けるようにしてニコニコ話しかけるユリ…
「いやぁ…高校の時の同級生で、たまたま昨日同窓会の役員会で会っただけ。久しぶりにな…」
ユリの腕をふりほどこうとしながら歩くが、ユリはまだ腕をきつく巻き付けながら食い下がる。
「あんな優しい子、うちのチームにはおらんと思うんよ~なんか、優しいって言うか、紳士的言うか~気遣いができる言うか…笑った顔も素敵じゃと思わん?!」
どうやらユリの興味は弟くんの方にあるようで何となくホッとした。
「後藤さんとは今そんな連絡とかとれんけぇあんまり期待すんなよ。」
やっと腕をふりほどき、ユリの頭をポンポンとたたきながら言った。
「なんだぁ~残念。お兄ちゃん役にたたんわ~ホンマ」ぷくっとほっぺたを膨らませながら言うユリを可愛いなぁ…と思う。
「じゃあ、うち今日も得点ボード係じゃから」ヒラヒラと手をふりながら一塁側ベンチサイドにある得点ボードのところに走って行った。
ユリがマネージャーをする野球部の試合を見に来るのは初めてだ。自分自身、野球からはしばらく遠ざかっていたし…。
ユリが野球部のマネージャーをすると言い出したときには正直戸惑った。達也があんなことになったのだから、野球になど関わりたくないと思っていると勝手に思い込んでいたから。
ユリは達也の妹だ。