忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
「野球肩じゃけん…」東山君は医務室のベッドの上に寝転び、左腕で顔を隠しながら呟いた。右肩は氷のうで冷やしている。
結局救急車で病院に運ばれることは無く、医務室で応急処置をしてもらった。
足が震えて動けずにいた私の肩を抱きながらやや引っ張るようなかたちで医務室まで連れてきたのは唯だった。
どうしたらいいかわからない私は、ベッドのそばの椅子に座りとりあえず東山君の肩を冷やしている氷のうがずれないように押さえていた。
「うん…。」
『野球肩じゃけん』という東山君の言葉にどう返事をしたらいいかわからずとりあえずうなずいた。
左腕で顔を隠していたが、その頬を涙が伝うのが見えた。
「ウワァー!!」
割れんばかりの歓声が上がる。
…試合が終了したらしい。
東山君に代わり、次のピッチャーが投げた9回表、うちのチームは逆転された。
2点を追うかたちになった9回裏だったが…
「負けたんかな…多分。俺カッコ悪…」
流れた涙をグイッと左腕で拭い、苦笑いを見せる。
私は思わずポケットからハンカチを取り出し、東山君の目のあたりをおおった。
「無理して笑わんでええよ。東山君、かっこよかったし!カッコ悪くなんかないけぇ…全然ないけぇ!!」
そう言葉がついてでた。
東山君は押しつけたハンカチを私の手の上からぎゅっと握りしめ、肩を震わせて泣きはじめた。
私はその手をふりほどけずにいた。
いつも明るい東山君のこんな姿、はじめて見たから…
どのくらいの時間が過ぎただろう…気のきいた言葉などかけられない私はただただ肩を震わせる東山君のそばに寄り添うことしかできなかった。
カタッ スパイクがコンクリートの床に当たる音がした。ハッと見ると永井君が帽子で顔を隠しながら立っていた。
私はあわてて手を引っ込めようとしたが、力強く握る東山君の手はふりほどくことができなかった。
「…悪い…負けたわ。俺、最後の打席ヒット打てんかった」
永井君は入り口に立ったまま、帽子を少しずらししかめっ面で呟いた。
「やっぱ俺がおらんといけんなぁ~光は!」
東山君は私の手をぎゅっと強く握ってから離した。その左手で頭をかきながら冗談めかしく言う。私はあわててポケットにハンカチをしまった。
「あほ!運がなかっただけじゃ。」
そう言いながら永井君はベッドに寝転んでいる東山君に近寄ってきた。
「後藤ちゃんにかっこええところ見せれんかったけど、まぁ 一年生大会やこ~お祭りみたいなもんじゃけぇ、次の夏大の時バッチリエースナンバー着けてかっこええ姿みせるけぇ楽しみにしとってや!」
東山君は私の方を見上げてそう言い、
「な、光!」
と永井君のお尻をポンと叩いた。
そんな二人の様子を何も言えずうつむきがちに見ていた。東山君に握られていた手をそっと後ろに隠しながら…
東山君に手を握られている姿を永井君に見られてしまったことと、いつも明るい東山君の弱っている姿を見てしまったことに動揺して、頭の中は真っ白だった…。ただ、黙って座っていた…。二人のそばで息をひそめて…。
誰にも言えず、隠しているこの思いがこぼれ落ちないように 息をひそめて…。
結局救急車で病院に運ばれることは無く、医務室で応急処置をしてもらった。
足が震えて動けずにいた私の肩を抱きながらやや引っ張るようなかたちで医務室まで連れてきたのは唯だった。
どうしたらいいかわからない私は、ベッドのそばの椅子に座りとりあえず東山君の肩を冷やしている氷のうがずれないように押さえていた。
「うん…。」
『野球肩じゃけん』という東山君の言葉にどう返事をしたらいいかわからずとりあえずうなずいた。
左腕で顔を隠していたが、その頬を涙が伝うのが見えた。
「ウワァー!!」
割れんばかりの歓声が上がる。
…試合が終了したらしい。
東山君に代わり、次のピッチャーが投げた9回表、うちのチームは逆転された。
2点を追うかたちになった9回裏だったが…
「負けたんかな…多分。俺カッコ悪…」
流れた涙をグイッと左腕で拭い、苦笑いを見せる。
私は思わずポケットからハンカチを取り出し、東山君の目のあたりをおおった。
「無理して笑わんでええよ。東山君、かっこよかったし!カッコ悪くなんかないけぇ…全然ないけぇ!!」
そう言葉がついてでた。
東山君は押しつけたハンカチを私の手の上からぎゅっと握りしめ、肩を震わせて泣きはじめた。
私はその手をふりほどけずにいた。
いつも明るい東山君のこんな姿、はじめて見たから…
どのくらいの時間が過ぎただろう…気のきいた言葉などかけられない私はただただ肩を震わせる東山君のそばに寄り添うことしかできなかった。
カタッ スパイクがコンクリートの床に当たる音がした。ハッと見ると永井君が帽子で顔を隠しながら立っていた。
私はあわてて手を引っ込めようとしたが、力強く握る東山君の手はふりほどくことができなかった。
「…悪い…負けたわ。俺、最後の打席ヒット打てんかった」
永井君は入り口に立ったまま、帽子を少しずらししかめっ面で呟いた。
「やっぱ俺がおらんといけんなぁ~光は!」
東山君は私の手をぎゅっと強く握ってから離した。その左手で頭をかきながら冗談めかしく言う。私はあわててポケットにハンカチをしまった。
「あほ!運がなかっただけじゃ。」
そう言いながら永井君はベッドに寝転んでいる東山君に近寄ってきた。
「後藤ちゃんにかっこええところ見せれんかったけど、まぁ 一年生大会やこ~お祭りみたいなもんじゃけぇ、次の夏大の時バッチリエースナンバー着けてかっこええ姿みせるけぇ楽しみにしとってや!」
東山君は私の方を見上げてそう言い、
「な、光!」
と永井君のお尻をポンと叩いた。
そんな二人の様子を何も言えずうつむきがちに見ていた。東山君に握られていた手をそっと後ろに隠しながら…
東山君に手を握られている姿を永井君に見られてしまったことと、いつも明るい東山君の弱っている姿を見てしまったことに動揺して、頭の中は真っ白だった…。ただ、黙って座っていた…。二人のそばで息をひそめて…。
誰にも言えず、隠しているこの思いがこぼれ落ちないように 息をひそめて…。