忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
胸のモヤモヤ ~高校時代~

# 光side

# 光side

「見られたかなぁ…お前、みたじゃろ?」

日がとっぷりと暮れ、冷たい空気を吸いながら自転車を押して歩く帰り道、達也が少し照れたように聞いてきた。

「はぁ?何を?」

カシャッと自転車が触れ合うほど近寄り
「なんなら~マジで見てないん?俺らのラブラブ!ひひっ」
こらえきれない笑いを漏らしながら達也が言う。

「つっとに!あぶねぇなぁお前は!って言うか…え?あの時?医務室で何かあったん?」

達也と距離を取るためにすっと前に出ながらたずねた。

「やぁ~何か…言うか、後藤ちゃんになぐさめてもろぉーて…ほんでな!ほんでな!手を…クククッ」

とそこまで話してから急に左手でガッツポーズを取り
「手を、手を握ってしまいました~!!!」

大きな声ではしゃぎながら言う達也に少しイラッとしながらまわりをキョロキョロ見た。

「しぃ~じゃ!声でかすぎ!嬉しかったんはわかるけど」

思わず意地悪に言ってしまった。

「なんじゃ~やっぱり見てなかったんか」
つまらなそうに言う。

「お前に見せる顔がのぉて帽子で顔を隠しとったけんな。見てやれんで悪かったのぉ」
自転車を押し前を向いたままそう言うと、納得したのかしなかったのかわからないが「試合は負けたし肩は痛かったけど、まぁええこともあったわ…」達也はブツブツと独り言のように言いながら後をついて歩いていた。
よほど嬉しかったのだろう…。




達也と交差点でわかれてから自転車にまたがって走り出した。
冷たい風が胸のモヤモヤを消してくれる気がして全力でこいだ。




本当は見てしまった。



顔にハンカチを乗せている後藤さんの手を達也がにぎっているところを…。
一瞬だったから後藤さんがどんな表情をしているのかはわからなかった。すぐに帽子で顔を隠したからだ。

達也が大げさに言うラブラブのラブシーンだとは思わないが、なぜか見ていられなかった。
優しい後藤さんのことだからきっと達也をなぐさめてあげていたのだろう と そう言い聞かせる自分に気づき、頭を振った。

そんなことを考えながら思いきり自転車をこいでいたから家の前まであっという間に着いた。


「あいつ、本気なんじゃろぉな…後藤さんのこと。」

呟いてからしばらくの間家の前で止まり、夜空を見上げていた。星がキレイだった。小さく控えめに輝く星を見つけ、何だか後藤さんみたいだ と思った。
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