忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
# 光side
# 光side
唯が腕をぐいぐいと引っ張り階段をのぼっていく。途中「おい?なんなん?なぁ!」とたずねてみたが唯は終始無言のままだった。
すれ違う人たちが「さっき…」とか「修羅場?」とか噂しているのが聞こえた。
4階まで上がりきったところでブンと振り払うように俺の手を離した。
ふぅ…と深いため息をつきながら唯が怒ったような顔を向け「何で?こっちが聞きたいわ!どういうつもりで…」と唯がそこまで言ったところで
ドサッ 背中に何かを投げつけられた。
振り向くとバサッと鞄が落ちる。俺の鞄だった。
その鞄を拾う間もなく胸元をつかまれ壁に押し付けられた。
胸元をつかむ手はワナワナと震えている。
…達也だった。
「お前、俺の気持ち、知っとろうが!…何で?何でお前が後藤ちゃんを運ぶんなら!!どうして?」
達也は俺に詰め寄り振り絞るように言う。
胸が痛んだ。
もちろん達也が後藤さんに本気なことは気付いている。はっきりと「本気で好きだ」と、面と向かって言われたことは無いが、いつも一緒にいる達也の気持ちが本気かどうかなんて聞かなくても気付いていた。
「悪い。ちょうど4階まで上がりきった時にあの騒ぎで…野次馬根性でのぞいたら…倒れとったのが唯と仲良しで、唯がいっつも何かと気にかけとる後藤さんだったけぇ…」
苦し紛れに唯を言い訳にしてしまった。
本当は野次馬根性なんて嘘で、倒れたのが後藤さんかもしれないと思ったらいてもたってもいられず、自然に体が動いていたのに…
歯を食い縛った表情で首もとの手を緩めた達也は俺の腹に一撃を喰らわせてから「…ほんでも、好きな子が他の男に抱き抱えられて運ばれたと思ったらええ気はせんけぇ」と力無く言う。
「痛ってぇ~」と大袈裟に言いながら達也をトンと押し退けた。
「ほんじゃあ、あの担任のメガネ陰険オヤジが運んでもえかったんか?」
少しふざけたように言う俺にやっと苦笑いのような笑顔を向ける。
「あっ、アホか!あのエロそうなオヤジよりかはお前の方がなんぼかマシじゃ。」
フフッと二人で顔を見合わせて笑うと側で黙って様子を見守っていた唯がやれやれと言った表情で教室に向かって歩きだした。入り口で振り向き「二人とも、みぃの事を傷つけたらホンマに許さんけぇ」釘を刺すように言ってからプルプリ怒りながら机についた。
「唯は怒りん坊じゃなぁ~。おい、俺様がわざわざお前の鞄を1組から取ってきてやったけぇ、ありがたく思えや!」俺の肩を組ながら言う。
達也にいつもの人懐っこい笑顔がもどり、少しホッとした。
「じゃけど、唯は何で後藤ちゃんの事になったらあんなにむきになるんじゃろぉな…」
それは俺も同じように疑問に思っていた。ちょっと過保護すぎるような気もする。
「…まぁ、唯は姉御肌な感じじゃし、友達を大切にしとるんじゃろぉ」
達也のお尻を叩き、教室に向かう。
「痛ってぇ~」
大袈裟に言いながらおどけて見せる達也…親友とはいえ、本当ははらわたが煮え繰りかえるほど腹が立っていただろうに(ホンマにあいつはええやつじゃ)そうあらためて思った。
あいつを裏切らないように…芽生えかけた思いを確かにしないでおこう、と心に誓った。
ふと後藤さんの照れたような柔らかい笑顔が浮かんできたが、その思いに蓋をするようにきつく手を握りしめた。
震えながら後藤さんの柔らかい前髪やおでこに触れた、その手を…。
唯が腕をぐいぐいと引っ張り階段をのぼっていく。途中「おい?なんなん?なぁ!」とたずねてみたが唯は終始無言のままだった。
すれ違う人たちが「さっき…」とか「修羅場?」とか噂しているのが聞こえた。
4階まで上がりきったところでブンと振り払うように俺の手を離した。
ふぅ…と深いため息をつきながら唯が怒ったような顔を向け「何で?こっちが聞きたいわ!どういうつもりで…」と唯がそこまで言ったところで
ドサッ 背中に何かを投げつけられた。
振り向くとバサッと鞄が落ちる。俺の鞄だった。
その鞄を拾う間もなく胸元をつかまれ壁に押し付けられた。
胸元をつかむ手はワナワナと震えている。
…達也だった。
「お前、俺の気持ち、知っとろうが!…何で?何でお前が後藤ちゃんを運ぶんなら!!どうして?」
達也は俺に詰め寄り振り絞るように言う。
胸が痛んだ。
もちろん達也が後藤さんに本気なことは気付いている。はっきりと「本気で好きだ」と、面と向かって言われたことは無いが、いつも一緒にいる達也の気持ちが本気かどうかなんて聞かなくても気付いていた。
「悪い。ちょうど4階まで上がりきった時にあの騒ぎで…野次馬根性でのぞいたら…倒れとったのが唯と仲良しで、唯がいっつも何かと気にかけとる後藤さんだったけぇ…」
苦し紛れに唯を言い訳にしてしまった。
本当は野次馬根性なんて嘘で、倒れたのが後藤さんかもしれないと思ったらいてもたってもいられず、自然に体が動いていたのに…
歯を食い縛った表情で首もとの手を緩めた達也は俺の腹に一撃を喰らわせてから「…ほんでも、好きな子が他の男に抱き抱えられて運ばれたと思ったらええ気はせんけぇ」と力無く言う。
「痛ってぇ~」と大袈裟に言いながら達也をトンと押し退けた。
「ほんじゃあ、あの担任のメガネ陰険オヤジが運んでもえかったんか?」
少しふざけたように言う俺にやっと苦笑いのような笑顔を向ける。
「あっ、アホか!あのエロそうなオヤジよりかはお前の方がなんぼかマシじゃ。」
フフッと二人で顔を見合わせて笑うと側で黙って様子を見守っていた唯がやれやれと言った表情で教室に向かって歩きだした。入り口で振り向き「二人とも、みぃの事を傷つけたらホンマに許さんけぇ」釘を刺すように言ってからプルプリ怒りながら机についた。
「唯は怒りん坊じゃなぁ~。おい、俺様がわざわざお前の鞄を1組から取ってきてやったけぇ、ありがたく思えや!」俺の肩を組ながら言う。
達也にいつもの人懐っこい笑顔がもどり、少しホッとした。
「じゃけど、唯は何で後藤ちゃんの事になったらあんなにむきになるんじゃろぉな…」
それは俺も同じように疑問に思っていた。ちょっと過保護すぎるような気もする。
「…まぁ、唯は姉御肌な感じじゃし、友達を大切にしとるんじゃろぉ」
達也のお尻を叩き、教室に向かう。
「痛ってぇ~」
大袈裟に言いながらおどけて見せる達也…親友とはいえ、本当ははらわたが煮え繰りかえるほど腹が立っていただろうに(ホンマにあいつはええやつじゃ)そうあらためて思った。
あいつを裏切らないように…芽生えかけた思いを確かにしないでおこう、と心に誓った。
ふと後藤さんの照れたような柔らかい笑顔が浮かんできたが、その思いに蓋をするようにきつく手を握りしめた。
震えながら後藤さんの柔らかい前髪やおでこに触れた、その手を…。