忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
傍にいる資格 ~高校時代~
#未来side
# 未来side
クッキーが焼けるのを待つ間、調理室の窓から外を眺めていた。
雪がちらつく2月の校庭はとても寒そうな色をしている。調理室の窓からは植垣の間からフェンス越しにグランドが見える。サッカー部がゲーム形式の練習をしていて、ハツラツと動き回っている。冬練の今、野球部側のグランドは閑散としていてネットに向かってティーバッティングをしている人、走り込みをしにロードに出ている人…気が付けば永井君の姿を探している自分に気づく。
「ふぅ…」
何故かため息が出た。
あの事があってから…私を保健室まで運んでくれた日から何故かぎこちない態度を取られているような気がする。気のせいかもしれないけれど…
「おはよう!今日は雨だね」とか「これから移動教室?」とか「部活?お疲れ様。今日何作るん?」…っていつもなら何かと話しかけてくれていたような気がするのに、最近はすれ違ってもワンテンポずれたような笑顔を見せて手を上げるくらいだ。スッと視線をそらされてしまう時もある。
「何でかなぁ」窓ガラスにもたれながら呟いた。
コンコン
窓ガラスを軽く叩く音がして驚いた。窓の外をキョロキョロと見るが誰も居ない。不思議に思っているところにバッと人影が現れてさらに驚く。
「キャッ!」声をあげて思わず目をつぶり頭を抱える。
「はっはっは~驚いた?未来ちゃん!」
軽快な笑い声と私の名前を呼ぶ声が聞こえ、片目を開けて見る。
「なんじゃあ~達也くんか!もぉ!ビックリさせんで」
窓ガラスを叩いて驚かせたのが達也くんだとわかりホッとして膨れっ面をしながら笑って窓を開けた。
「ん~ええ匂い!何?何?今日何作っとん?」
窓から調理室を覗き込んで目をキラキラさせる。
「あっ、今日はチョコレートクッキー。もうすぐ焼けるよ」
「えっ?そーなん?俺、チョコレートクッキー大好き!!大好物なんよ。」
達也くんがさらに目をキラキラさせて言うからおかしくて笑ってしまう。
週に2日あるクッキング部の日は必ずこうやって調理室を覗き何を作っているかたずねる。作っているものを教えてあげる度に『大好き!!大好物なんよ』と言う達也くんを思い浮かべおかしくてさらに笑う。
「クスクス。クスクス。」笑いが止まらない。
「え?未来ちゃん?俺何かおかしいこと言うた?」
目を丸くしてさらに覗き込んで言うから部屋の中に落ちそうになる。
思わず手を差しのべて達也くんが落ちないように両肩を支えた。
「大丈夫?」
「はははっ!大丈夫!余裕余裕。」
ちょっと驚いてひきつった笑顔で余裕だと言う達也くんにまた笑えた。
「プッ、フフフッ。だって…フフフッ」
笑えてその先が言えない。
「何?何かおかしかった?」
つられて笑いながらたずねる。
「だって、何を作っとるって言ってもいっつも『大好き、大好物』って言うけん。フフフッ」
おかしくて笑いが止まらない。
「は?いや、そうかな?」
「うん、そう。フフフッ」
そう答えた時、達也くんがフッと柔らかい笑顔になり私の髪にそっと手を伸ばし触れた。
「何か悩んどるように見えたけど…気のせいだったかな?よぉ笑う!」
そう言うとバンダナを三角巾代わりにして着けている横から少し覗くボブヘアの髪をキュッと引っ張った。
またふざけて~!と思いながら、そんなことをしてくる男の子の友達はおらず少し照れて頬が赤くなるのを感じた。
一歩下がりバンダナを整える仕草をしながら
「もぉ!別に悩んでないけぇ。」と笑顔を取り繕う。(鋭いなぁ…達也くん。)
「なら良かった。バンダナしとったら髪の毛で邪魔されんで未来ちゃんの可愛い顔がよー見える!」
「…え?」
また頬が余計に赤くなる。
「達也~!」
遠くから達也くんを呼ぶ声が聞こえた。
「やべぇ、またサボっとんの見つかる!じゃあ、焼けたら後でまたちょうだいな!」
言うが早いか、ちょっと焦りながら駆け出したが、途中で後ろ向き走りになり笑顔で両手をブンブン振りながら仲間のところに戻って行く。
私も笑顔で手を振り返しながら
「練習頑張って!」と声をかけた。
その声が聞こえたのか私の口元を読んだのかわからないが達也くんはガッツポーズを見せダッシュをして戻っていった。
達也くんと話をすると心がポカポカと暖かくなり、ホッとして自然と笑顔になる気がする。
でも…達也くんの背中を見送った後、窓を閉めながらまたため息が出た。
…『達也!』と呼んだのは永井君の声だったから。
永井君はこちらに近づこうともせず、遠くから呼んでいた。
(前なら永井君も多分、この窓から覗いて声をかけてくれただろうに…)
ピー ピー ピー
オーブンが止まった音がして、我にかえる。
「そんなこともないかもしれん。」
自分に言い聞かせた。
私がボブヘアにしている理由。うつむくと髪の毛で顔が少し隠れるから。自分に自信がないから少しでも…
バンダナから少しのぞく髪の毛を自分でさわる。
『なら良かった。バンダナしとったら髪の毛で邪魔されんで未来ちゃんの可愛い顔がよー見える!』
そう言ってくれた達也くんの声が耳の奥でこだました。(ありがとう、いつも笑顔にしてくれて)
クッキーが焼けるのを待つ間、調理室の窓から外を眺めていた。
雪がちらつく2月の校庭はとても寒そうな色をしている。調理室の窓からは植垣の間からフェンス越しにグランドが見える。サッカー部がゲーム形式の練習をしていて、ハツラツと動き回っている。冬練の今、野球部側のグランドは閑散としていてネットに向かってティーバッティングをしている人、走り込みをしにロードに出ている人…気が付けば永井君の姿を探している自分に気づく。
「ふぅ…」
何故かため息が出た。
あの事があってから…私を保健室まで運んでくれた日から何故かぎこちない態度を取られているような気がする。気のせいかもしれないけれど…
「おはよう!今日は雨だね」とか「これから移動教室?」とか「部活?お疲れ様。今日何作るん?」…っていつもなら何かと話しかけてくれていたような気がするのに、最近はすれ違ってもワンテンポずれたような笑顔を見せて手を上げるくらいだ。スッと視線をそらされてしまう時もある。
「何でかなぁ」窓ガラスにもたれながら呟いた。
コンコン
窓ガラスを軽く叩く音がして驚いた。窓の外をキョロキョロと見るが誰も居ない。不思議に思っているところにバッと人影が現れてさらに驚く。
「キャッ!」声をあげて思わず目をつぶり頭を抱える。
「はっはっは~驚いた?未来ちゃん!」
軽快な笑い声と私の名前を呼ぶ声が聞こえ、片目を開けて見る。
「なんじゃあ~達也くんか!もぉ!ビックリさせんで」
窓ガラスを叩いて驚かせたのが達也くんだとわかりホッとして膨れっ面をしながら笑って窓を開けた。
「ん~ええ匂い!何?何?今日何作っとん?」
窓から調理室を覗き込んで目をキラキラさせる。
「あっ、今日はチョコレートクッキー。もうすぐ焼けるよ」
「えっ?そーなん?俺、チョコレートクッキー大好き!!大好物なんよ。」
達也くんがさらに目をキラキラさせて言うからおかしくて笑ってしまう。
週に2日あるクッキング部の日は必ずこうやって調理室を覗き何を作っているかたずねる。作っているものを教えてあげる度に『大好き!!大好物なんよ』と言う達也くんを思い浮かべおかしくてさらに笑う。
「クスクス。クスクス。」笑いが止まらない。
「え?未来ちゃん?俺何かおかしいこと言うた?」
目を丸くしてさらに覗き込んで言うから部屋の中に落ちそうになる。
思わず手を差しのべて達也くんが落ちないように両肩を支えた。
「大丈夫?」
「はははっ!大丈夫!余裕余裕。」
ちょっと驚いてひきつった笑顔で余裕だと言う達也くんにまた笑えた。
「プッ、フフフッ。だって…フフフッ」
笑えてその先が言えない。
「何?何かおかしかった?」
つられて笑いながらたずねる。
「だって、何を作っとるって言ってもいっつも『大好き、大好物』って言うけん。フフフッ」
おかしくて笑いが止まらない。
「は?いや、そうかな?」
「うん、そう。フフフッ」
そう答えた時、達也くんがフッと柔らかい笑顔になり私の髪にそっと手を伸ばし触れた。
「何か悩んどるように見えたけど…気のせいだったかな?よぉ笑う!」
そう言うとバンダナを三角巾代わりにして着けている横から少し覗くボブヘアの髪をキュッと引っ張った。
またふざけて~!と思いながら、そんなことをしてくる男の子の友達はおらず少し照れて頬が赤くなるのを感じた。
一歩下がりバンダナを整える仕草をしながら
「もぉ!別に悩んでないけぇ。」と笑顔を取り繕う。(鋭いなぁ…達也くん。)
「なら良かった。バンダナしとったら髪の毛で邪魔されんで未来ちゃんの可愛い顔がよー見える!」
「…え?」
また頬が余計に赤くなる。
「達也~!」
遠くから達也くんを呼ぶ声が聞こえた。
「やべぇ、またサボっとんの見つかる!じゃあ、焼けたら後でまたちょうだいな!」
言うが早いか、ちょっと焦りながら駆け出したが、途中で後ろ向き走りになり笑顔で両手をブンブン振りながら仲間のところに戻って行く。
私も笑顔で手を振り返しながら
「練習頑張って!」と声をかけた。
その声が聞こえたのか私の口元を読んだのかわからないが達也くんはガッツポーズを見せダッシュをして戻っていった。
達也くんと話をすると心がポカポカと暖かくなり、ホッとして自然と笑顔になる気がする。
でも…達也くんの背中を見送った後、窓を閉めながらまたため息が出た。
…『達也!』と呼んだのは永井君の声だったから。
永井君はこちらに近づこうともせず、遠くから呼んでいた。
(前なら永井君も多分、この窓から覗いて声をかけてくれただろうに…)
ピー ピー ピー
オーブンが止まった音がして、我にかえる。
「そんなこともないかもしれん。」
自分に言い聞かせた。
私がボブヘアにしている理由。うつむくと髪の毛で顔が少し隠れるから。自分に自信がないから少しでも…
バンダナから少しのぞく髪の毛を自分でさわる。
『なら良かった。バンダナしとったら髪の毛で邪魔されんで未来ちゃんの可愛い顔がよー見える!』
そう言ってくれた達也くんの声が耳の奥でこだました。(ありがとう、いつも笑顔にしてくれて)