忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 光side

# 光side

気まずい…そんな気持ちが心の中に渦巻いている。後藤さんへの自分の気持ちの傾きを隠す事はなかなか難しかった。

目は勝手に後藤さんを追ってしまうのにそれをやめなければ、と心の中の自分が止める。

それでも目が会ってしまった時、不自然にそらしてしまい後悔する。急いで目をそらしたその一瞬に見えた後藤さんの、微笑もうとしてすぐに曇ってしまったその表情に胸が痛んだ。

次は気を付けようと決意し、『目で追うな、目で追うな』と心の中で念じるが、いつの間にか後藤さんを探している自分がいる。

今度うっかり目が会ってしまった時は笑顔で手を上げることにしようと決めた。しかし、いざ目が会ってしまうと声をかけたくなる衝動を押さえるため、笑顔を作るのにワンテンポ遅れて、いかにも張り付けたような笑顔になってしまう。とにかく不自然な。そして、また後悔する。


でも後悔の気持ちがさらに深まるのは、自分が目をそらしたその瞬間に曇った後藤さんの顔を、達也が笑顔にするのを見てしまった時だ。

『大切にしたいんじゃ。未来ちゃんのことを。辛い思いもさせとぉないし、泣かせとぉ無いし。笑顔でおって欲しいんじゃ。』

そう言った達也は本当に後藤さんの事を大切にしている事が見ていて本当に良くわかる。

後藤さんの表情を瞬時に読み取り、さりげなく、優しく、明るく接する達也は凄いなと心底思う。

後藤さんの顔が一瞬曇った…と思ったときにはもうすでに達也が声をかけていて、遠くから見る俺には何を話しているのかはわからないが後藤さんがその屈託の無い笑顔を達也に向ける。

俺が…俺も…そう思う気持ちもあるが、唯の話を思い出し踏みとどまる。

『達也が話しかける時は前みたいな屈託の無い笑顔になるような気がするん。安心しとるような…』

そう、達也と一緒にいる時の後藤さんは俺の目から見ても安心しているように見える。

(それでええんじゃ。)そう自分に言い聞かせ、芽生えかけた気持ちに一生懸命蓋をする。自分が決めた事だから。

胸が締め付けられるように苦しい。

でも、これが後藤さんを大切にすると決めた俺の、俺なりのやり方。

笑顔にさせてあげる力の無い俺は後藤さんの近くに居ない方がいい。






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