忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 光side

# 光side

二人の姿を見送ったあと、しばらく紙袋を抱えてじっと立っていた。
(後藤さんを泣かせてしまった…)後悔の気持ちに押し潰されそうになる。

俺だって傷つけたくないし、笑顔でいて欲しいと思っている。なのに…

強く握りしめた紙袋がカサッと音をたてた。それを大切に鞄にしまい、グランドのすみにあるバッティングネットに向かった。

ティーの上にのせたボールを思い切り打つ。心のモヤモヤを吹き飛ばすために。

「やけくそか!」

声がして初めて達也がそこに居るのに気づいた。

「おぉ、達也。後藤さん、無事にバスに乗った?」
ティーを打つのを中断して達也に話しかける。
いつの間にかそこにいて半ばやけくそにボールを打つ姿を見られてしまい、バツが悪かった。

達也は黙ったままボールのカゴに近づき1つボールを手に取る。
ポンポンと片手でボールを軽く投げて取りながらこちらを見ようとしない達也…

思わずごくりと唾を飲み込んだ。

「…なぁ、光。お前、未来ちゃんのことホンマはどお思っとん。」
達也はボールから目を離さずに静かな声で話しかける。

「…俺は…。」何も言えない。

「光の未来ちゃんに対する態度、俺気になる。何で冷たくしとん?意識しとん?何泣かせとん!泣かせといて無事にバスに乗ったかとか何で心配しとん!」
投げていたボールを握りしめて捲し立てるように言うその声は怒りに震えていた。

「いや…俺…」
続ける言葉が見つからない。何を言っても嘘っぽいから。

「まぁ、ええ。お前の気持ちがどうでも。けどな、未来ちゃんを泣かすな!それだけはゆるせんけぇ。」
達也は俺の方に向きなおり、まっすぐに俺の顔を見てそう言った。

「…。」
達也の顔をまともに見れずうつむいてしまった。

「はっきりせんやつじゃのぉ~!だっせぇー!!」

パシッ

そう言ってボールを俺に向かって投げてきた。

あわてた俺は何とかボールを取って達也の顔を見た。

「ホンマお前、だせーわ!クックック」

達也はニヤリと笑ってそう言った。

「いや…俺…」
それでも言葉が見つからず苦い顔をして達也から目をそらす。

「お前がどう思っとっても、もう一回、これだけは言う。」

呆然と立っていた俺に近づき、肩をグッと押して言う。
「未来ちゃんを泣かすなや。」

「…。」

真剣な達也の表情と言葉に、また何も言えずただうなずいた。

これからは今まで通り話しかけよう。達也のように後藤さんを笑顔にできるかどうかわらないけど、俺の気持ちより後藤さんの笑顔の方が大切だから…。そう思った。
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