忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
文化祭当日
結局予算や見た目の可愛いさから文化祭の出店はいちご飴屋さんに決まった。
クラスの入り口に長机を出し、売場にしていた。教室の中ではラッピングをしている。朝早くいちご飴を作り上げてしまっていたから、文化祭での仕事は注文を受け、チケットを受け取ったり、ラッピングしたいちご飴を渡したりするのみ。
私はいちご柄のエプロンを着て売場のすみに立っていた。積極的に売っているのはクラスでも目立つ子達だったから。
ぼんやりと立っていた私はポンと肩を叩かれ、ゆっくりと振り向いた。
えっ? 思わず目を見開き、口を開けたままになってしまった。
「後藤さん、この前はごちそうさま。いちご飴屋さん、大盛況じゃな」
ポンと叩いた手をそのまま私の肩に乗せたままニッコリと笑い、少ししゃがんで声をかけて来たのは団子の絵がついたTシャツを着た永井君だった。
開けたままの口から心臓が飛び出してしまうかと思った。
驚いた私は目を見開いたまま永井君の方を向いていたが顔を見ることは出来ず、おのずとTシャツの辺りに目をやっていた。
「あっ、これ?俺ら5組は団子屋なんよ。」
永井君はTシャツばかり見ていた私に気がついて、団子の絵の辺りをつまんでこちらに見せてそう言う。
思わず顔が赤くなってしまうのがわかり、それを隠すように両頬を手でかくして「…お団子も美味しそう…」やっとの思いでそう呟く。
すると、スッと目の前にお団子が差し出された。
えっ? ふと見ると「どっちの味が好みかわからんけぇ、イメージで三色団子にしといた。」お団子を持っていたのは、永井君と同じ5組、同じ野球部の東山達也君だった。永井君と仲が良くていつも一緒にいるから、いつの間にか顔も名前も覚えてしまった。背は低めだが、広めの肩幅が男らしい、細くていつも笑ったような目をしている、いかにも野球少年な感じがする男の子。
永井君のことしか目に入っていなかった私だったから少し驚いて、思わず手を差し出してしまった。
「はい、後藤ちゃん!」差し出した手を包み込むように団子を渡され、赤かった顔が更にカット熱くなるのを感じた。私は男の子に全くなれていなかったから…。
「この淡い色合の三色団子、可愛らしい後藤ちゃんによぉにおーとるじゃろ。なぁ光!」
(後藤ちゃん?ちゃん付け?!しかも てっ手が!!)
包み込むようにした手をにぎにぎとする東山君の顔を見ることは出来ずカクカク震えながら目をキョロキョロさせる私。
「お前、やめちゃれや!後藤さんが困りょうるじゃろぉが」
永井君がトンっ と東山君の肩を押して私から離してくれた。
「ごめん、ごめん。つい後藤ちゃんが可愛くて~」頭をかきながら東山君が謝る。
「大丈夫?」私の顔を覗き込んで永井君が声をかけてくれた。あまりに近い距離に思わず後ろに飛び退いてしまった。
「ううん、大丈夫。ひっ東山君、お団子ありがとう。」上手く笑えたかどうかわからなかったけど、自分では笑顔のつもりでお礼を言った。(もぉ高校生じゃもん。このくらいのこと、慣れんといけんよな)
「…でも、何で私にお団子…」
「こいつが、この前試作のいちご飴食べた~言うけん、お礼せぇやって、俺が提案したんよ!」両手を組んだ東山君がアゴでクイクイと永井君の方をさして言う。
「まぁ、そんなとこ。」永井君は微笑んで柔らかい声で言う。
「俺もいちご飴も~らお。じゃ、後藤ちゃん、まったね~」
東山君はヒラヒラと手を振りながいちご飴を買い求める列に並びに行った。
私はその後ろ姿と手に持っているお団子を代わる代わる見ていた。
しばらくしてまた肩をポンと叩かれ、ハッとして見上げる。
「ごめん、驚かせて。達也、馴れ馴れしかろ~ごめんな。」
バツの悪そうな顔で苦笑いをしながら永井君が声をかけてくれた。
(はっ、まだおった?)
不意打ちで声をかけられ、また顔が赤らむ。
「ううん、全然。…あっ、お団子、ありがとう…嬉しい。」
永井君はふっと微笑んで「それなら良かった。じゃ、またな!」そう言うと永井君は私の頭にポンと手を乗せ、東山君の方に走って行ってしまった。
(えっ?えっ~っ?!)思わぬ出来事に瞬きが早くなってしまう。心臓は壊れそうなくらいドキドキしていた。
片手にお団子、片手は胸の辺りをギュと握り、立ちすくんでいた私に遠くから柔らかい声が聞こえ、振り向いた。
「後藤さん、ここめちゃめちゃえ~匂いがしょうる。」
東山君の肩を組みながら振り向いて声をかけてくれた永井君の姿が霞んで見えた。キラキラ輝く霞がかかって…
永井君が触れた肩と頭…ぽかぽかとしてくすぐったい…そんな感じ。ドキドキが治まらず、思わずスッと深呼吸をする。いちご飴の甘い香りが鼻をくすぐった。
この恋はいちごの香り…。
結局予算や見た目の可愛いさから文化祭の出店はいちご飴屋さんに決まった。
クラスの入り口に長机を出し、売場にしていた。教室の中ではラッピングをしている。朝早くいちご飴を作り上げてしまっていたから、文化祭での仕事は注文を受け、チケットを受け取ったり、ラッピングしたいちご飴を渡したりするのみ。
私はいちご柄のエプロンを着て売場のすみに立っていた。積極的に売っているのはクラスでも目立つ子達だったから。
ぼんやりと立っていた私はポンと肩を叩かれ、ゆっくりと振り向いた。
えっ? 思わず目を見開き、口を開けたままになってしまった。
「後藤さん、この前はごちそうさま。いちご飴屋さん、大盛況じゃな」
ポンと叩いた手をそのまま私の肩に乗せたままニッコリと笑い、少ししゃがんで声をかけて来たのは団子の絵がついたTシャツを着た永井君だった。
開けたままの口から心臓が飛び出してしまうかと思った。
驚いた私は目を見開いたまま永井君の方を向いていたが顔を見ることは出来ず、おのずとTシャツの辺りに目をやっていた。
「あっ、これ?俺ら5組は団子屋なんよ。」
永井君はTシャツばかり見ていた私に気がついて、団子の絵の辺りをつまんでこちらに見せてそう言う。
思わず顔が赤くなってしまうのがわかり、それを隠すように両頬を手でかくして「…お団子も美味しそう…」やっとの思いでそう呟く。
すると、スッと目の前にお団子が差し出された。
えっ? ふと見ると「どっちの味が好みかわからんけぇ、イメージで三色団子にしといた。」お団子を持っていたのは、永井君と同じ5組、同じ野球部の東山達也君だった。永井君と仲が良くていつも一緒にいるから、いつの間にか顔も名前も覚えてしまった。背は低めだが、広めの肩幅が男らしい、細くていつも笑ったような目をしている、いかにも野球少年な感じがする男の子。
永井君のことしか目に入っていなかった私だったから少し驚いて、思わず手を差し出してしまった。
「はい、後藤ちゃん!」差し出した手を包み込むように団子を渡され、赤かった顔が更にカット熱くなるのを感じた。私は男の子に全くなれていなかったから…。
「この淡い色合の三色団子、可愛らしい後藤ちゃんによぉにおーとるじゃろ。なぁ光!」
(後藤ちゃん?ちゃん付け?!しかも てっ手が!!)
包み込むようにした手をにぎにぎとする東山君の顔を見ることは出来ずカクカク震えながら目をキョロキョロさせる私。
「お前、やめちゃれや!後藤さんが困りょうるじゃろぉが」
永井君がトンっ と東山君の肩を押して私から離してくれた。
「ごめん、ごめん。つい後藤ちゃんが可愛くて~」頭をかきながら東山君が謝る。
「大丈夫?」私の顔を覗き込んで永井君が声をかけてくれた。あまりに近い距離に思わず後ろに飛び退いてしまった。
「ううん、大丈夫。ひっ東山君、お団子ありがとう。」上手く笑えたかどうかわからなかったけど、自分では笑顔のつもりでお礼を言った。(もぉ高校生じゃもん。このくらいのこと、慣れんといけんよな)
「…でも、何で私にお団子…」
「こいつが、この前試作のいちご飴食べた~言うけん、お礼せぇやって、俺が提案したんよ!」両手を組んだ東山君がアゴでクイクイと永井君の方をさして言う。
「まぁ、そんなとこ。」永井君は微笑んで柔らかい声で言う。
「俺もいちご飴も~らお。じゃ、後藤ちゃん、まったね~」
東山君はヒラヒラと手を振りながいちご飴を買い求める列に並びに行った。
私はその後ろ姿と手に持っているお団子を代わる代わる見ていた。
しばらくしてまた肩をポンと叩かれ、ハッとして見上げる。
「ごめん、驚かせて。達也、馴れ馴れしかろ~ごめんな。」
バツの悪そうな顔で苦笑いをしながら永井君が声をかけてくれた。
(はっ、まだおった?)
不意打ちで声をかけられ、また顔が赤らむ。
「ううん、全然。…あっ、お団子、ありがとう…嬉しい。」
永井君はふっと微笑んで「それなら良かった。じゃ、またな!」そう言うと永井君は私の頭にポンと手を乗せ、東山君の方に走って行ってしまった。
(えっ?えっ~っ?!)思わぬ出来事に瞬きが早くなってしまう。心臓は壊れそうなくらいドキドキしていた。
片手にお団子、片手は胸の辺りをギュと握り、立ちすくんでいた私に遠くから柔らかい声が聞こえ、振り向いた。
「後藤さん、ここめちゃめちゃえ~匂いがしょうる。」
東山君の肩を組みながら振り向いて声をかけてくれた永井君の姿が霞んで見えた。キラキラ輝く霞がかかって…
永井君が触れた肩と頭…ぽかぽかとしてくすぐったい…そんな感じ。ドキドキが治まらず、思わずスッと深呼吸をする。いちご飴の甘い香りが鼻をくすぐった。
この恋はいちごの香り…。