忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
# 光side
# 光side
思わず抱きしめてしまった後藤さんの柔らかさがまだ両手に残っている。
何て事をしてしまったんだろう。胸のドキドキが止まらない。
先生が入ってこなかったらあのあと何と口走ってしまったか…と思うと不安になる。
達也や後藤さんとの関係を壊したくない。
「永井くん。右手首の怪我の件なんじゃけど、部活での怪我じゃしスポーツ保険を使うから…」
保健の先生が何やら書類を出して説明してくれるが当然うわの空だ。
後藤さんに変に思われたのでは無いか…と言うか、驚かせてしまったことに間違いは無い。もしかしたら怖がらせてしまったかも知れない。何であんなこと…!自分で自分のしでかしたことを悔いる。
それでも後藤さんが自分のために流してくれた涙と必死に元気付けようとしてくれた言葉を思い出し、にやけてしまう。
あまりにうわの空だったから先生が繰り返し繰り返し説明してくれたおかげで思いのほか時間がかかった。おかげで少し冷静になれた気がした。
「失礼します。」
先生にあいさつをして保健室を後にした。ふと見ると壁に寄りかかるようにして達也が立っていた。
「達也。…悪い。」
怪我の事を謝ろうと達也に近づく。一緒にレギュラー取ろう、とあれほど約束していたのに。
約束通りエースナンバーを手にした達也だった。
「何が?何について謝っとん。」
達也は怒った様子で言う。
「怪我…してしもぉて…。」
うつ向いて言う。達也の顔が見れない。
「おお。怪我もそぉじゃ。それに…」
達也は両手を握りしめて震わせている。
「それに?」
不安になりたずねる。
達也は両手を握りしめたまま背中を向ける。
「…俺、今未来ちゃんに告白した。」
「…えっ?」
「告白しただけじゃない。」
心臓がうるさく音をたてはじめた。
気がつくと力を込めて達也の肩をつかみ、無理やりこっちに向かせていた。
「じゃけぇ、未来ちゃんに告白して、抱きしめて…キスもした。」
達也が肩を震わせ、睨み付けながら言う。
動揺した。
…告白…キス…
頭が真っ白になった。クラクラする。
「…何で?大切にするって言よったのに…。」
思わず呟く。
「お前、人のこと言えるんか?!」
「…えっ?」
「…見たんじゃ!お前が未来ちゃんを抱きしめるとこを!! 窓から見えた!」
首もとにつかみかかりながら達也が低い声で言う。心臓がひっくり返るほど驚いた。
首もとをつかむ達也の手を左手で引き離す。
「じゃけど…じゃけん言うて…」
(キス…後藤さんと…) 達也をゆるせない気持ちと抱きしめているところを見られてしまった事への動揺とでもう頭がぐちゃぐちゃだ。
「俺はお前にハッキリと未来ちゃんの事が好きじゃ言うた。お前は…お前は何にも…。じゃけぇ未来ちゃんはお前に渡さん。」
達也はそれだけ言うと踵を返して玄関に向かって走っていった。
残された俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。
後藤さんの笑顔と涙…抱きしめた柔らかさと優しい言葉…それらを思い出しながら後藤さんのことが好きだ、という思いがぐるぐる頭を回る。膨らみすぎたこの思いを隠してきたことへの後悔に押し潰される。…達也。達也は後藤さんに思いを告げた。キス…した…?後藤さんもやっぱり達也が…。
野球も恋も友情も…うまくいかない。
胸が苦しくなる。
初めて部活をサボった。
思わず抱きしめてしまった後藤さんの柔らかさがまだ両手に残っている。
何て事をしてしまったんだろう。胸のドキドキが止まらない。
先生が入ってこなかったらあのあと何と口走ってしまったか…と思うと不安になる。
達也や後藤さんとの関係を壊したくない。
「永井くん。右手首の怪我の件なんじゃけど、部活での怪我じゃしスポーツ保険を使うから…」
保健の先生が何やら書類を出して説明してくれるが当然うわの空だ。
後藤さんに変に思われたのでは無いか…と言うか、驚かせてしまったことに間違いは無い。もしかしたら怖がらせてしまったかも知れない。何であんなこと…!自分で自分のしでかしたことを悔いる。
それでも後藤さんが自分のために流してくれた涙と必死に元気付けようとしてくれた言葉を思い出し、にやけてしまう。
あまりにうわの空だったから先生が繰り返し繰り返し説明してくれたおかげで思いのほか時間がかかった。おかげで少し冷静になれた気がした。
「失礼します。」
先生にあいさつをして保健室を後にした。ふと見ると壁に寄りかかるようにして達也が立っていた。
「達也。…悪い。」
怪我の事を謝ろうと達也に近づく。一緒にレギュラー取ろう、とあれほど約束していたのに。
約束通りエースナンバーを手にした達也だった。
「何が?何について謝っとん。」
達也は怒った様子で言う。
「怪我…してしもぉて…。」
うつ向いて言う。達也の顔が見れない。
「おお。怪我もそぉじゃ。それに…」
達也は両手を握りしめて震わせている。
「それに?」
不安になりたずねる。
達也は両手を握りしめたまま背中を向ける。
「…俺、今未来ちゃんに告白した。」
「…えっ?」
「告白しただけじゃない。」
心臓がうるさく音をたてはじめた。
気がつくと力を込めて達也の肩をつかみ、無理やりこっちに向かせていた。
「じゃけぇ、未来ちゃんに告白して、抱きしめて…キスもした。」
達也が肩を震わせ、睨み付けながら言う。
動揺した。
…告白…キス…
頭が真っ白になった。クラクラする。
「…何で?大切にするって言よったのに…。」
思わず呟く。
「お前、人のこと言えるんか?!」
「…えっ?」
「…見たんじゃ!お前が未来ちゃんを抱きしめるとこを!! 窓から見えた!」
首もとにつかみかかりながら達也が低い声で言う。心臓がひっくり返るほど驚いた。
首もとをつかむ達也の手を左手で引き離す。
「じゃけど…じゃけん言うて…」
(キス…後藤さんと…) 達也をゆるせない気持ちと抱きしめているところを見られてしまった事への動揺とでもう頭がぐちゃぐちゃだ。
「俺はお前にハッキリと未来ちゃんの事が好きじゃ言うた。お前は…お前は何にも…。じゃけぇ未来ちゃんはお前に渡さん。」
達也はそれだけ言うと踵を返して玄関に向かって走っていった。
残された俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。
後藤さんの笑顔と涙…抱きしめた柔らかさと優しい言葉…それらを思い出しながら後藤さんのことが好きだ、という思いがぐるぐる頭を回る。膨らみすぎたこの思いを隠してきたことへの後悔に押し潰される。…達也。達也は後藤さんに思いを告げた。キス…した…?後藤さんもやっぱり達也が…。
野球も恋も友情も…うまくいかない。
胸が苦しくなる。
初めて部活をサボった。