忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
野球部は苦戦しながらも今日の試合で勝ち4回戦へと進んだ。今日は平日だったから応援には行けていない。四時間目の授業前に「そういえば今日野球部勝ったらしいぞ。明日は応援バスが出るから、乗りたい人は職員室まで申し込みに来て下さい!」と先生が言っていた。
いつも明るく、ムードメーカーの達也くんがいない教室は少し寂しい気がした。
あの日から少しぎこちなくしてしまう私に対していつもと変わらない態度で接してくれる達也くん。あれはもしかしたら夢だったのではないか…と思うほど。
放課後職員室に応援バスの申し込みをしに行った。
唯と亜紀と三人で行くことにした。
職員室から出ようとしたとき、永井くんが入れ違いで入ろうとするところだった。
あれから永井くんともうまく接することができずにいて、避けているわけではないけど何となく会わないですむようにしている私がいた。でも、こんなにバッチリと顔を合わせてしまったからには何か話しかけないと…焦ってしまう。
「あ、俺ら今日も勝ったけん。」
先に話しかけてくれたのは永井くんだった。
「うん、おめでとう。明日応援行こうと思って今バスの申し込みしたとこなんよ」
「おっ、そうなん?!ありがとう。」
屈託の無い笑顔で言う永井くんの顔に目線を向けた。
すると永井くんは少しバツが悪そうにパッとおでこを手で隠した。
「おでこ、ハチマキ焼けしとるじゃろ。」
苦笑いをして言う。
本当はグランドで活躍したかったはずの永井くんはハチマキをして応援団長をしていた。
「うん、ホントじゃな。」
気を使われていると思わせないように笑顔で答える。
「頑張っとる証拠だと思うで」
そう続けた。
実際、レギュラーに手が届きそうだったのに試合に出られなくて悔しい気持ちがあるはずなのにそんな姿を見せずに応援に力を注ぐ永井くんは頑張っていると思う。
悔しい気持ちを素直に見せたのはあの保健室でだけだったのだと…。
「ありがとう!…明日は…」
永井くんが何か言おうとした時
「未来ちゃん!」
遮るように私の名前を呼ぶ声がした。
「今日も俺、頑張ったで!カッコええとこ見せれんで残念だったぁ~」
両手を腰に当て、満面の笑みで自信満々に言う達也くんが居た。
「おかえりなさい。ベスト8おめでとう!」
「ありがとう!明日は…」
「明日応援行こうと思って、今応援バスの申し込みしたとこなんよ」
「え!やったぁ!!未来ちゃん来てくれたら俺今まで以上に頑張れるわ!バッタバッタと三振取るで~」
達也くんがはしゃいで言う。
「達也…明日も投げるんか?無理なら…」
永井くんが話しに入ってこようとした時それを手で制止ながら「光、悪いけどちょっと俺と未来ちゃんの二人にしてくれんか?」
そう達也くんが言った。
真剣な顔で…。
「あっ…悪い、じゃまして。じゃあ、また明日後藤さん。達也、ミーティング遅れるなよ!」
永井くんは私の方には目線をくれずそう言うが早いか走るようにして行ってしまった。
「未来ちゃん…ちょっとええ?裏庭で話そうか」
親指で裏庭を指差した。
「うっ、うん。」
この前のことを思い出し、少し緊張しながら裏庭までゆっくりと歩いた。何気なく歩幅をあわせてくれる達也くんの隣を歩いているうちに緊張がほぐれてきた。達也くんの隣は居心地がいい…。
裏庭には花壇があり、マリゴールドの花が揺れていた。キレイだと思った。
「未来ちゃん…。」
真面目な表情の達也くんに胸がドキッとした。この前の返事のことをたずねられるのかと思うと身構えてしまう。
「明日も俺、投げさせて下さいって言うた。未来ちゃんが応援に来てくれたら頑張れる気がする!」そう言うと達也くんはフッといつもの笑顔になる。
その笑顔につられて私も笑顔になってしまった。
「うん、応援するね!」
「未来ちゃん…俺な、ホンマは怖いんじゃ。明日、打たれたらどうしよう。フォアボール出してしもぉたらどうしよう…ってな。ハハハ、俺らしくないじゃろぉ」
笑顔が曇り、消え入りそうな声で言う達也くんを励ましてあげたいと思った。でも、うまく言葉にならずにいた。
「未来ちゃん…。」
真剣な顔で真っ直ぐに私の目を覗き込む達也くん。
私は不安を和らげてあげるために笑顔をつくった。
「抱きしめてもええ?」
「えっ、あっ…え?」
思いがけない言葉に戸惑う私の返事を待たずに達也くんがそっと私を抱きしめた。大切なものを抱きしめるようにそっと…。
不安を和らげてあげるために私は達也くんの背中をトントンと軽くたたいた。
「ありがとう。元気出た…。」
耳元でささやくように言い、一瞬ギュッと強く抱きしめてからそっと離れた。達也くんの表情が少し柔らかくなったように見えホッとした。
達也くんは何事も無かったかのように背を向け、伸び伸びをした。
「さっ、元気チャージ終了!ミーティング行くかなぁ~」
振り向いて明るい声で言う。
「うん。」
笑顔で答える。
「遅れたらまた先輩にこっぴどくやられるけぇな」
離れがたい、そんな気持ちが私の中にもあった。多分達也くんにも…。
「明日はいっぱい応援する。」
やっと一言言葉にしたその時、また達也くんが私を抱きしめた。今度はきつく…。でもそれは一瞬で、すぐに離れた。
「あ~もぉ、俺ホンマに未来ちゃんが好きじゃ。好きすぎて…もぉ、可愛いすぎる未来ちゃんが悪い!」
捲し立てるように言うと、ふぅとため息をついた達也くんは、じゃあ、また明日と手を振って走り去っていった。
あまりにもビックリして頭の中が整理出来ないけど、達也くんの気持ちは何となく伝わった。真剣なんだと言うことも…。
ドキドキよりもあったかくてほんわかした気持ちが湧いてきて、しばらくしゃがみこみ両手で頬をおおいながらマリーゴールドの花を見ていた。
(達也くんの事が好き?なの?)
自分の気持ちが揺れるのを感じていた。
いつも明るく、ムードメーカーの達也くんがいない教室は少し寂しい気がした。
あの日から少しぎこちなくしてしまう私に対していつもと変わらない態度で接してくれる達也くん。あれはもしかしたら夢だったのではないか…と思うほど。
放課後職員室に応援バスの申し込みをしに行った。
唯と亜紀と三人で行くことにした。
職員室から出ようとしたとき、永井くんが入れ違いで入ろうとするところだった。
あれから永井くんともうまく接することができずにいて、避けているわけではないけど何となく会わないですむようにしている私がいた。でも、こんなにバッチリと顔を合わせてしまったからには何か話しかけないと…焦ってしまう。
「あ、俺ら今日も勝ったけん。」
先に話しかけてくれたのは永井くんだった。
「うん、おめでとう。明日応援行こうと思って今バスの申し込みしたとこなんよ」
「おっ、そうなん?!ありがとう。」
屈託の無い笑顔で言う永井くんの顔に目線を向けた。
すると永井くんは少しバツが悪そうにパッとおでこを手で隠した。
「おでこ、ハチマキ焼けしとるじゃろ。」
苦笑いをして言う。
本当はグランドで活躍したかったはずの永井くんはハチマキをして応援団長をしていた。
「うん、ホントじゃな。」
気を使われていると思わせないように笑顔で答える。
「頑張っとる証拠だと思うで」
そう続けた。
実際、レギュラーに手が届きそうだったのに試合に出られなくて悔しい気持ちがあるはずなのにそんな姿を見せずに応援に力を注ぐ永井くんは頑張っていると思う。
悔しい気持ちを素直に見せたのはあの保健室でだけだったのだと…。
「ありがとう!…明日は…」
永井くんが何か言おうとした時
「未来ちゃん!」
遮るように私の名前を呼ぶ声がした。
「今日も俺、頑張ったで!カッコええとこ見せれんで残念だったぁ~」
両手を腰に当て、満面の笑みで自信満々に言う達也くんが居た。
「おかえりなさい。ベスト8おめでとう!」
「ありがとう!明日は…」
「明日応援行こうと思って、今応援バスの申し込みしたとこなんよ」
「え!やったぁ!!未来ちゃん来てくれたら俺今まで以上に頑張れるわ!バッタバッタと三振取るで~」
達也くんがはしゃいで言う。
「達也…明日も投げるんか?無理なら…」
永井くんが話しに入ってこようとした時それを手で制止ながら「光、悪いけどちょっと俺と未来ちゃんの二人にしてくれんか?」
そう達也くんが言った。
真剣な顔で…。
「あっ…悪い、じゃまして。じゃあ、また明日後藤さん。達也、ミーティング遅れるなよ!」
永井くんは私の方には目線をくれずそう言うが早いか走るようにして行ってしまった。
「未来ちゃん…ちょっとええ?裏庭で話そうか」
親指で裏庭を指差した。
「うっ、うん。」
この前のことを思い出し、少し緊張しながら裏庭までゆっくりと歩いた。何気なく歩幅をあわせてくれる達也くんの隣を歩いているうちに緊張がほぐれてきた。達也くんの隣は居心地がいい…。
裏庭には花壇があり、マリゴールドの花が揺れていた。キレイだと思った。
「未来ちゃん…。」
真面目な表情の達也くんに胸がドキッとした。この前の返事のことをたずねられるのかと思うと身構えてしまう。
「明日も俺、投げさせて下さいって言うた。未来ちゃんが応援に来てくれたら頑張れる気がする!」そう言うと達也くんはフッといつもの笑顔になる。
その笑顔につられて私も笑顔になってしまった。
「うん、応援するね!」
「未来ちゃん…俺な、ホンマは怖いんじゃ。明日、打たれたらどうしよう。フォアボール出してしもぉたらどうしよう…ってな。ハハハ、俺らしくないじゃろぉ」
笑顔が曇り、消え入りそうな声で言う達也くんを励ましてあげたいと思った。でも、うまく言葉にならずにいた。
「未来ちゃん…。」
真剣な顔で真っ直ぐに私の目を覗き込む達也くん。
私は不安を和らげてあげるために笑顔をつくった。
「抱きしめてもええ?」
「えっ、あっ…え?」
思いがけない言葉に戸惑う私の返事を待たずに達也くんがそっと私を抱きしめた。大切なものを抱きしめるようにそっと…。
不安を和らげてあげるために私は達也くんの背中をトントンと軽くたたいた。
「ありがとう。元気出た…。」
耳元でささやくように言い、一瞬ギュッと強く抱きしめてからそっと離れた。達也くんの表情が少し柔らかくなったように見えホッとした。
達也くんは何事も無かったかのように背を向け、伸び伸びをした。
「さっ、元気チャージ終了!ミーティング行くかなぁ~」
振り向いて明るい声で言う。
「うん。」
笑顔で答える。
「遅れたらまた先輩にこっぴどくやられるけぇな」
離れがたい、そんな気持ちが私の中にもあった。多分達也くんにも…。
「明日はいっぱい応援する。」
やっと一言言葉にしたその時、また達也くんが私を抱きしめた。今度はきつく…。でもそれは一瞬で、すぐに離れた。
「あ~もぉ、俺ホンマに未来ちゃんが好きじゃ。好きすぎて…もぉ、可愛いすぎる未来ちゃんが悪い!」
捲し立てるように言うと、ふぅとため息をついた達也くんは、じゃあ、また明日と手を振って走り去っていった。
あまりにもビックリして頭の中が整理出来ないけど、達也くんの気持ちは何となく伝わった。真剣なんだと言うことも…。
ドキドキよりもあったかくてほんわかした気持ちが湧いてきて、しばらくしゃがみこみ両手で頬をおおいながらマリーゴールドの花を見ていた。
(達也くんの事が好き?なの?)
自分の気持ちが揺れるのを感じていた。