忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
バス停 ~高校時代~
文化祭が終わりその興奮が薄れる頃、秋の深まりを感じはじめ、冬の足音が聞こえてきた。夕方の日暮れも早い。
クッキング部の活動が終わり学校を出る頃にはもう辺りは暗くなってしまうようになった。
いつもは自転車通学だったが、暗いと危ないから と私の事を心配した父親からバス通学を進められ、春までバスで通うことにした。
門のところで部活の友達と手を振って別れた。北行きのバスに乗る人は私だけ。1人バス停に向かって歩き始めた時…
「帰るん?」
後ろから柔らかい声が聞こえた。振り向かなくても誰だかわかる。胸がドキンとはねるが、ふぅ と息をはいて心を落ち着かせてからゆっくりと振り向いた。
野球部の練習着を着た永井君が少し早足で歩いて来るのが見えた。
「あっ、うん。今日からバス通学にしたんよ。」私がそう答えると、永井君はそっと私の背中を押して並んで歩き始める。
「帰り、こっち?」永井君は北行きのバス停の方を指差し、ふっと微笑んで少し垂れた目を細めた。
永井君が背中を押してくれたことや並んで歩くことが嬉しく、恥ずかしく…顔が赤くなるのを感じて少しうつむく。
「うん、そぉ。」
小さな声で答えた。
…ん?でも永井君まだ練習着。なのに何で?並んで歩いていることを不思議に思い、たずねる。
「なっ永井君は?永井君ももぉ帰るん?まだ練習あるんじゃない?」
「ん?いや、後藤さんが帰るのが見えて…ちょっと心配で。もぉ暗いけん。」そう柔らかい声で答えてくれた。
びっくりしてパッと永井君の方を見る。両手を野球の練習ズボンのお尻のポケットに突っ込んだままこちらを見るでもなく前を向いてゆっくりと歩いていた。
私は、嬉しさと恥ずかしさが入り交じり、なんとも言えない、ぽかぽかと温かくなる心を弾ませながら
「ありがとう。」
とやっと一言お礼を言えた。
赤らむ頬を隠すように両手で包みながら歩く。
バス停までたどり着くと、永井君は時刻表を見てからバス停の軒下にある時計を確認する。
「次のバスに間に合ったな。良かった。あと5分。」
安心したように永井君が言う。
汗をかいたあとそのまま私に合わせてゆっくり歩いてくれたから体が冷えてしまったかもしれない。ふとそんな心配が心をよぎった。
「ごっごめんなさい、付き合わせてしまって。あっありがとう。もうバス来るけん…」
モジモジしながらも永井君の顔を見上げてそう言った。
永井君はふっと柔らかく微笑んで少しかがんで私の顔を覗き込む。
「寒い?大丈夫?真っ赤じゃあ~」
そう言いながら真っ赤になった私の鼻をギュッとつまむ。
ドキン 心臓がひっくり返るのを感じた。驚きすぎて口から心臓が飛び出してしまうかと思うほど。
とっさにうつ向いて足もとを見つめながら「だっ…大丈夫。」とやっとの思いで言葉を絞り出す。
くすっ と笑いながら「ごめんごめん。後藤さんの鼻が、いちご飴みたいに赤かったけん。可愛くてつい。」と言われた。
(…可愛くて?!えっ?えーっ!)
ドキドキしすぎて何も言えない。
「後藤さん、気のせいか何かいちごの匂いがする。」鼻をクンクンさせながら永井君が近づいて来るから思わず一歩下がる。
その時バスがこちらに向かって来るのが見えた。
「あっ、今日部活で…クッキング部の。いちご大福作ったけん…。」そう言いかけた時
「足もと気をつけてな!」永井君はそう言いながらそっと私の肩に手を置く。
間もなく目の前に停まったバスの扉がプーッと音をたてて開いた。
「じゃあ、またな、後藤さん。」そう言いながら永井君は私の背中をそっと押した。
「あっ、あっ、ありがとう。」
お礼を言い振り向きながらバスに乗り込む。
「いや、唯がいっつも心配しとるけん。後藤さんのこと。」
永井君の言葉に胸がチクリと痛んだ。その時、またプーと音をたてて扉が閉まった。
(やっぱり…唯が…。唯のことが…。)
私は泣きそうになる気持ちをおさえてすぐそこの空いていた座席に座る。
ふと窓の外を見ると、片手をお尻のポケットに入れた永井君が私に向かって手を振ってくれていた。
こぼれ落ちそうな涙をこらえながら何とか笑顔を作り、小さく手を振り返した。
自分の事を心配してくれたのかな…なんてうぬぼれてしまったけれど、ただの勘違いだった。そう思うとまた胸がチクリと痛んだ。
(永井君はやっぱり…やっぱり唯のことが好きなんかもしれん。)そう思うとまた涙がこぼれてしまいそうになる。
「…勘違いしたらいけんなぁ…。」
涙でにじんだ窓の外の景色を眺めながらそうつぶやいた。
…じゃけど。何で?
出ない答えを探す。
涙がぽとりと膝の上に置いた手の甲に落ちた。
クッキング部の活動が終わり学校を出る頃にはもう辺りは暗くなってしまうようになった。
いつもは自転車通学だったが、暗いと危ないから と私の事を心配した父親からバス通学を進められ、春までバスで通うことにした。
門のところで部活の友達と手を振って別れた。北行きのバスに乗る人は私だけ。1人バス停に向かって歩き始めた時…
「帰るん?」
後ろから柔らかい声が聞こえた。振り向かなくても誰だかわかる。胸がドキンとはねるが、ふぅ と息をはいて心を落ち着かせてからゆっくりと振り向いた。
野球部の練習着を着た永井君が少し早足で歩いて来るのが見えた。
「あっ、うん。今日からバス通学にしたんよ。」私がそう答えると、永井君はそっと私の背中を押して並んで歩き始める。
「帰り、こっち?」永井君は北行きのバス停の方を指差し、ふっと微笑んで少し垂れた目を細めた。
永井君が背中を押してくれたことや並んで歩くことが嬉しく、恥ずかしく…顔が赤くなるのを感じて少しうつむく。
「うん、そぉ。」
小さな声で答えた。
…ん?でも永井君まだ練習着。なのに何で?並んで歩いていることを不思議に思い、たずねる。
「なっ永井君は?永井君ももぉ帰るん?まだ練習あるんじゃない?」
「ん?いや、後藤さんが帰るのが見えて…ちょっと心配で。もぉ暗いけん。」そう柔らかい声で答えてくれた。
びっくりしてパッと永井君の方を見る。両手を野球の練習ズボンのお尻のポケットに突っ込んだままこちらを見るでもなく前を向いてゆっくりと歩いていた。
私は、嬉しさと恥ずかしさが入り交じり、なんとも言えない、ぽかぽかと温かくなる心を弾ませながら
「ありがとう。」
とやっと一言お礼を言えた。
赤らむ頬を隠すように両手で包みながら歩く。
バス停までたどり着くと、永井君は時刻表を見てからバス停の軒下にある時計を確認する。
「次のバスに間に合ったな。良かった。あと5分。」
安心したように永井君が言う。
汗をかいたあとそのまま私に合わせてゆっくり歩いてくれたから体が冷えてしまったかもしれない。ふとそんな心配が心をよぎった。
「ごっごめんなさい、付き合わせてしまって。あっありがとう。もうバス来るけん…」
モジモジしながらも永井君の顔を見上げてそう言った。
永井君はふっと柔らかく微笑んで少しかがんで私の顔を覗き込む。
「寒い?大丈夫?真っ赤じゃあ~」
そう言いながら真っ赤になった私の鼻をギュッとつまむ。
ドキン 心臓がひっくり返るのを感じた。驚きすぎて口から心臓が飛び出してしまうかと思うほど。
とっさにうつ向いて足もとを見つめながら「だっ…大丈夫。」とやっとの思いで言葉を絞り出す。
くすっ と笑いながら「ごめんごめん。後藤さんの鼻が、いちご飴みたいに赤かったけん。可愛くてつい。」と言われた。
(…可愛くて?!えっ?えーっ!)
ドキドキしすぎて何も言えない。
「後藤さん、気のせいか何かいちごの匂いがする。」鼻をクンクンさせながら永井君が近づいて来るから思わず一歩下がる。
その時バスがこちらに向かって来るのが見えた。
「あっ、今日部活で…クッキング部の。いちご大福作ったけん…。」そう言いかけた時
「足もと気をつけてな!」永井君はそう言いながらそっと私の肩に手を置く。
間もなく目の前に停まったバスの扉がプーッと音をたてて開いた。
「じゃあ、またな、後藤さん。」そう言いながら永井君は私の背中をそっと押した。
「あっ、あっ、ありがとう。」
お礼を言い振り向きながらバスに乗り込む。
「いや、唯がいっつも心配しとるけん。後藤さんのこと。」
永井君の言葉に胸がチクリと痛んだ。その時、またプーと音をたてて扉が閉まった。
(やっぱり…唯が…。唯のことが…。)
私は泣きそうになる気持ちをおさえてすぐそこの空いていた座席に座る。
ふと窓の外を見ると、片手をお尻のポケットに入れた永井君が私に向かって手を振ってくれていた。
こぼれ落ちそうな涙をこらえながら何とか笑顔を作り、小さく手を振り返した。
自分の事を心配してくれたのかな…なんてうぬぼれてしまったけれど、ただの勘違いだった。そう思うとまた胸がチクリと痛んだ。
(永井君はやっぱり…やっぱり唯のことが好きなんかもしれん。)そう思うとまた涙がこぼれてしまいそうになる。
「…勘違いしたらいけんなぁ…。」
涙でにじんだ窓の外の景色を眺めながらそうつぶやいた。
…じゃけど。何で?
出ない答えを探す。
涙がぽとりと膝の上に置いた手の甲に落ちた。