忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
不安 ~高校時代~

# 光side

♯ 光side

唯の声が聞こえて振り向くと唯の隣で不安そうにグランドを見つめる後藤さんの姿が見えた。
後藤さんが今日来ることは知っていたし、もう球場に来ている事も分かっていた。




         ※



応援メンバー達と一緒に階段上のスタンド入り口前で応援準備をしている時、後輩達が達也の噂話をしているのが耳に入ってきた。

「なあ!見た?達也さんの彼女めっちゃ可愛い!」
「あぁ、それな、彼女じゃ無いらしいで。」
「え?マジで?あんなにラブラブっぽいのに?!」
「おぉ、マジで!だって達也さんに彼女めっちゃ可愛いですね、言うたら『彼女じゃ無いで。ただ俺がめちゃめちゃ好きなだけ。』って言うたもん。」
「ほぉ、めちゃめちゃ…な。」
「だいぶ好きみたいじゃな~達也さん。けどわかるような気がするわぁ。ふわっとした感じの控えめな笑顔が何とも言えん可愛い。小さくて華奢なところも守ってあげたい、って思わせるがんなぁ。」
ニヤニヤとそう言う後輩に不快感を覚えた俺は「おい、しゃべるばぁせずに気を引き締めてな。」とついつい小言を言ってしまった。

後藤さんの事を自分たち以外の奴らに可愛いとかどうとか噂される事が嫌だった。
(やっぱり誰から見ても後藤さんは可愛いんじゃな…。)と心配になった。
それと同時に『彼女じゃないで』と言ったらしい達也の言葉を思い返してホッとした自分もいる。
達也は告白はしたけど、後藤さんはまだ返事をしてない、って事かな…。それとも振られた、とか?! そんな都合のいいことが頭をよぎった。

頭をブンブンと振り応援はちまきをギュッときつめに結んだ。
今余計な事を考えるのはやめよう。そう思った。
< 61 / 108 >

この作品をシェア

pagetop