忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
迷い ~高校時代~

# 未来side

# 未来side

夏休みのほとんどを家で過ごした。気を使って連絡をくれた唯や亜紀とも一度も会わなかった。
達也くんとはあれから連絡をとっていない。これ以上拒絶されるのが怖かったから。

今日から新学期だ。達也くんは学校に来るだろうか…会うのが怖い。
どんな顔をしたらいいだろう。

自転車を押しながら校門をくぐった。

「未来ちゃん!」

後ろから声をかけられ心臓が跳ね返った。

達也くんの声だ。

一瞬遅れて振り向く。

ガバッと正面から抱きしめられて思わず身をすくめる。

「未来ちゃん、そんなに固くならんでもええが~心配かけてごめんごめん。」

笑顔でそういう達也くん。目の横には手術の後をカバーするテープが貼ってあるものの、見た目はいつもの達也くんだった。いつも丸坊主にしていた髪の毛が少し伸びている。
拍子外れに明るい達也くんだった。

ホッとした気持ちとまだ怖い気持ちが混ざりあい、涙が目ににじんだ。

「…達也くん…うち…ごめんなさい。」

「え~何が?未来ちゃんが気にすること何にもないが。」達也くんは軽い調子でそう言いながら私の自転車を持つと門をくぐってすぐにある自転車置き場に自転車をとめた後,私の肩を抱きながら玄関に向けて歩きはじめた。
いつもと同じように明るいが少し不自然に感じた。
うまく言えないけど、以前のように一緒に居てホッとするような暖かさが無い気がして…少し身構えてしまった。

沢山の人がいるのに肩を抱かれて歩くことが嫌で距離を取ろうとする。

「何?未来ちゃん離れんでもええが。俺、未来ちゃんにずっと会いたかったのに連絡くれんし~」
やけに顔を近づけてそう言われ泣きそうになってしまった。

「達也!後藤さんが嫌がっとろうがな!やめちゃれや!!」

怒りのこもった声が聞こえたと思ったら永井くんが達也くんの肩をグッと押して離れさせてくれた。

「フッ 何?ヒーロー気取り? 爽やかイケメンはええなぁ~。」
達也くんは嫌な感じでそう言いながら永井くんに近づき、練習着の胸元をつかんだ。
「こんなとこでサボッとらずに練習に戻らんと示しがつかんで、キャプテンさん」
そう言い捨てるとつかんでいた胸元をグイッと押した。
永井くんは新チームになりキャプテンに就任したらしかった。

「…。達也!おまえホンマに…」
永井くんは両手を体の横で握りしめ辛そうな表情で達也くんに話しかけるが

「さっ、未来ちゃん教室行こうや。」
その言葉を無視して私の背中を押しながら玄関へと歩き始めた。私は促されるままに玄関に向かって歩き始めたが永井くんの様子が気になり後ろを振り向いた。

永井くんはきつく握りしめた両手を震わせながらうつ向き、その場に立ち尽くしていた。

私が後ろを振り向いていた事に気づいた達也くんは立ち止まり、背中を向けたまま
「お前も早よ~朝練切り上げんと遅刻になるで!野球部は大変じゃな~ほんならな」
そう大きな声で言うと今度は私の手首をにぎり、グイグイと引っ張って歩き始めた。










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