忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
名前 ~高校時代~
「後藤ちゃん!」
明るい声が廊下から聞こえる。
ホームルームが終わり、部活に行く準備をしていた所だった。エプロンが入っている袋を抱えながら廊下の窓に目をやる。
「後藤ちゃん!こっちこっち!」
廊下の窓からブンブンと手を振り、身をのりだす東山君の姿が目に入る。思わずくすっと笑ってしまった。明るくて気さくな東山君を見ると何となく笑顔になってしまう。男の子が苦手な私は同じクラスの男の子達ともなかなか言葉が交わせないでいたが、文化祭以降何かと話しかけてくれる東山君には少し心を開く事が出きるようになっていた。
「こんにちは」
廊下に出て東山君の側まで行ってから挨拶をする。ふと東山君の横を見ると、教室の中からでは分からなかったが、隣には永井君が立っていた。胸がドキッとして頬が赤くなるのを感じて少しうつ向きながら微笑んだ。
(びっくりした。赤くなったのばれちゃったかな…上手く笑えずに変な笑顔だったかもしれん…)
そんな風に思った瞬間
「来週な、一年生大会があるんじゃ!俺な、ピッチャーで出るけん、背番号1がもらえたんじゃ!お昼のミーティングで!」
私の肩をつかみ、グイグイと揺らしながら東山君が目をキラキラさせて言う。
少しチャラチャラとした印象を持たれる事もあるくらい、ふざけたことも言うし明るくて気さくな東山君だが、野球に対しては真剣に取り組んでいる事を知っていた。
調理室から見えるグランドで、野球部が練習している。私はいつもこっそり野球部の練習を見ていたから…。キャッチャーの永井君とピッチャーの東山君は一緒に練習をしていることが多かったから、自然と東山君の姿も目に入っていた。
「おめでとう、すごいね!良かったね!」
思わず大きな声で言った。
うちの高校の野球部はこの辺では強い方で、一学年30人ほどいる。その中で、一年生大会とはいえ背番号1がもらえるなんて本当にすごいと思った。
「ありがとう!後藤ちゃん、応援来てや~!!」
東山君が期待で目をキラキラさせながら言う。
「あっ、うっ…うち?!」
私は戸惑ってしまった。野球の試合どころか他のスポーツの試合の応援にも行ったことが無かったし、応援に駆けつけるほど東山君と仲が良いわけでもなかった…。返事をするのを戸惑っていたら永井君が私と東山君の間に入るように声をかけてくれた。
「後藤さん一人じゃ来にくいじゃろおけん、唯や本岡も誘って一緒に来たら?」
チクリと胸が痛んだ。唯…本岡…親しそうに呼ぶ二人の名前に対して私は…後藤さん…。
呼び方の差に、親しさの差が出ている気がしていた。
そんなことが頭をよぎり、行く とも 行かない とも言えずにモジモジしていた。
「もぉ~どこでも誰でも誘よんじゃなぁ~達也は!!」
明るい声が少し向こうから聞こえた。
唯だった…。
私は唯の方を向いて少し不自然に微笑んだあと、何となく目線のやり場に困り、私の返事をニコニコしながらまっている東山君の足元に目をやった。
「2組でも3組でも同じように誘っとったろ!!どんだけ見てもらいたいんよ~目立ちたがりじゃなぁ」ケラケラとおかしそうに笑い、永井君と東山君の間から二人の顔を覗き込むように唯が顔を出して言う。
「まぁ、せっかくじゃから一緒に行こうや~亜紀も誘って!!」
唯にそう言われてニヘッと笑い、唯と東山君の顔を交互に見ながら
「ほんじゃあ、行かせてもらおうかなぁ…」
そう答えた。
…永井君の顔は見れなかった。顔が赤くなって、私の気持ちがばれてしまわないように。
中学時代までは何でも話していた唯にも言えない、内緒の恋心だった。恋と呼ぶにはまだ幼く、淡い…そんな気持ちを大切に抱きしめていた。高校一年の晩秋。
明るい声が廊下から聞こえる。
ホームルームが終わり、部活に行く準備をしていた所だった。エプロンが入っている袋を抱えながら廊下の窓に目をやる。
「後藤ちゃん!こっちこっち!」
廊下の窓からブンブンと手を振り、身をのりだす東山君の姿が目に入る。思わずくすっと笑ってしまった。明るくて気さくな東山君を見ると何となく笑顔になってしまう。男の子が苦手な私は同じクラスの男の子達ともなかなか言葉が交わせないでいたが、文化祭以降何かと話しかけてくれる東山君には少し心を開く事が出きるようになっていた。
「こんにちは」
廊下に出て東山君の側まで行ってから挨拶をする。ふと東山君の横を見ると、教室の中からでは分からなかったが、隣には永井君が立っていた。胸がドキッとして頬が赤くなるのを感じて少しうつ向きながら微笑んだ。
(びっくりした。赤くなったのばれちゃったかな…上手く笑えずに変な笑顔だったかもしれん…)
そんな風に思った瞬間
「来週な、一年生大会があるんじゃ!俺な、ピッチャーで出るけん、背番号1がもらえたんじゃ!お昼のミーティングで!」
私の肩をつかみ、グイグイと揺らしながら東山君が目をキラキラさせて言う。
少しチャラチャラとした印象を持たれる事もあるくらい、ふざけたことも言うし明るくて気さくな東山君だが、野球に対しては真剣に取り組んでいる事を知っていた。
調理室から見えるグランドで、野球部が練習している。私はいつもこっそり野球部の練習を見ていたから…。キャッチャーの永井君とピッチャーの東山君は一緒に練習をしていることが多かったから、自然と東山君の姿も目に入っていた。
「おめでとう、すごいね!良かったね!」
思わず大きな声で言った。
うちの高校の野球部はこの辺では強い方で、一学年30人ほどいる。その中で、一年生大会とはいえ背番号1がもらえるなんて本当にすごいと思った。
「ありがとう!後藤ちゃん、応援来てや~!!」
東山君が期待で目をキラキラさせながら言う。
「あっ、うっ…うち?!」
私は戸惑ってしまった。野球の試合どころか他のスポーツの試合の応援にも行ったことが無かったし、応援に駆けつけるほど東山君と仲が良いわけでもなかった…。返事をするのを戸惑っていたら永井君が私と東山君の間に入るように声をかけてくれた。
「後藤さん一人じゃ来にくいじゃろおけん、唯や本岡も誘って一緒に来たら?」
チクリと胸が痛んだ。唯…本岡…親しそうに呼ぶ二人の名前に対して私は…後藤さん…。
呼び方の差に、親しさの差が出ている気がしていた。
そんなことが頭をよぎり、行く とも 行かない とも言えずにモジモジしていた。
「もぉ~どこでも誰でも誘よんじゃなぁ~達也は!!」
明るい声が少し向こうから聞こえた。
唯だった…。
私は唯の方を向いて少し不自然に微笑んだあと、何となく目線のやり場に困り、私の返事をニコニコしながらまっている東山君の足元に目をやった。
「2組でも3組でも同じように誘っとったろ!!どんだけ見てもらいたいんよ~目立ちたがりじゃなぁ」ケラケラとおかしそうに笑い、永井君と東山君の間から二人の顔を覗き込むように唯が顔を出して言う。
「まぁ、せっかくじゃから一緒に行こうや~亜紀も誘って!!」
唯にそう言われてニヘッと笑い、唯と東山君の顔を交互に見ながら
「ほんじゃあ、行かせてもらおうかなぁ…」
そう答えた。
…永井君の顔は見れなかった。顔が赤くなって、私の気持ちがばれてしまわないように。
中学時代までは何でも話していた唯にも言えない、内緒の恋心だった。恋と呼ぶにはまだ幼く、淡い…そんな気持ちを大切に抱きしめていた。高校一年の晩秋。