忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
お昼休みに達也くんがクラスに来てくれた。

「未来ちゃん!お昼一緒に食べよ!」
明るく朗らかな達也くんの声を聞くとホッとした。ホッとしたらこらえていた涙が浮かんでしまった。

「…達也くん…」

「今日は天気がええけぇ屋上行く?」

今にも泣きそうな私に気づいた達也くんはさりげなく教室の外に連れ出してくれた。



屋上の入り口は2つある。1つは開放してあるが1つは閉ざされている。達也くんはそっと背中を押しながら奥側にある閉ざされた入り口の階段に連れて来てくれた。屋上へ入れないその入り口は誰も来なくてひっそりとしている。

「未来ちゃん、座って。」肩を抱きながらゆっくりと座らせてくれた。
「何かあった?」

優しい笑顔でたずねてくれる達也くんの声を聞くと涙が溢れた。

達也くんは無理に聞き出そうとせずそっと頭を撫でてくれる。

「うち…先生に副委員長指名されてしもぉて…今までそんなことしたこと無いし…」

そこまで言うと自分から達也くんに抱きついた。こんなことを自分からしてしまうのは初めてだ。
達也くんは背中を優しく撫でてくれる。
「そっかぁ…それは…不安?かな?」

「うん」

「でも…悪いことばっかじゃないで~きっと」

「え?」

思わず達也くんの顔を見た。

「学級委員会、あるじゃろ。月に一回くらい。それで、俺に会えるで!」
頬の涙を手のひらで拭いてくれながら言う。

達也くんの言葉がうまく飲み込めないでいると

「いや、俺、学級委員長になってしもぉたけえ。ノリでな。ハハハ」

思わず笑顔になり両手で口元を覆う。

「誰もする、って言う奴がおらんけぇ…俺と唯ですることになってなぁ…正直面倒くさいって思っとったけど、良かった!」

「嬉しい!」
正直な気持ちだった。
初めての委員、しかも永井くんとだなんて…不安でしかなかった。気持ちが揺れてしまうんじゃないかと…。

「未来ちゃん?」

「ん?」

「俺からも抱きしめてもええ?」

「え?」

「さっき…嬉しかった。初めて未来ちゃんから…その…抱きついて来てくれて…」

付き合い初めてもう半年以上経つけど、達也くんが無理やり何かをしてくることは一度も無かった。手を繋ぐ時も抱きしめる時も私の表情や仕草から気持ちを読み取ったり、今みたいに必ずたずねてくれる。…キスもあれからほとんどしていない。
そんなところも安心して一緒にいられる理由だった。


「うん。もちろん。」顔を赤くしながらそう言うと達也くんがフワッと抱きしめてきた。

「同じクラスじゃないけぇ…未来ちゃんが不安な時一緒におれんでごめん。」
大切に大切にあつかってくれる達也くんの側にいるのはホッとするしいつも穏やかな気持ちになれた。

「心配かけたらいけんけど…うち、達也くんと同じクラスが良かったな…」

思わず本音がもれる。

「…うん。」

抱きしめてくれる達也くんの腕に力が入る。

しっかり捕まえていて欲しい。私の気持ちが揺れ動かないように。
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