忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 未来side

# 未来side

ドキドキが治まらず、一旦流し台にコップやスプーンを置いてギュッと目を閉じた。

こんなのいけんのに…ドキドキしたらいけんのに…。
罪悪感を抱き胸がチクリと痛んだ。

コンコン

ノックする音がして驚いて戸口を見ると達也くんが無表情で立っていた。


少しあわてて「達也くん。今日バイトじゃなかったん?」
そう言いながら近寄るがまだ達也くんは無表情のまま…。

「…未来ちゃん…」

達也くんのいつもより低い声に思わず歩み寄る足が止まった。

達也くんの方から近づいて来る。少し怖い気持ちと後ろめたさでうつむいてしまった。

達也くんに両肩をつかまれた。
「あいつと…あいつと…」
その続きは言葉にならず眉をひそめてうつむく達也くんの表情は苦悶に満ちている。

やはり見られたんだ!

「なっ、永井くんと手をつないでるように見えたかもしれんけど、違うんよ!違う!」
焦って言い訳をする。

首をフルフルと横に振りながら必死で訴える私の目を達也くんに覗き込まれ、目をそらしてしまったその時…

達也くんが荒々しくキスをしてきた。いつもの優しさはそこにはなく、怖いくらいに荒々しく…

「んっ…嫌っ…」

抵抗しようとするが痛いほど両肩をつかまれて身動きが取れない。
そのままグイグイと押され、調理道具がしまわれている棚に押し付けられた。

「未来ちゃん…俺のことどう思っとん?俺は未来ちゃんの彼氏なんよな。」

重ねた唇を離し、至近距離でたずねられた。
近すぎて表情は読めないが声は冷たい。

「たっ、達也くん?お願い。はっ、離して」

そうお願いしてみるが今度は首筋に無理やりキスをしてこられ、体が固まる。
そして達也くんの手がエプロンの肩紐にかかり私は身をよじって離れようとした。その時ビリッと音をたてエプロンの肩紐が破れて取れた、と同時に私の手が調理道具棚にしまってあったステンレスのボールに当りガシャンと激しく音をたてて床に落ちた。

その音で我に返ったのか達也くんがハッとした表情で少し私との距離を取った。

「…ごめん。俺…」達也くんがそう言いかけた時


「後藤さん!大丈夫?!」
永井くんが窓から飛び込んできた。

あわてて破れたエプロンの肩紐をつかみ
「だっ、大丈夫!何でもない」

やっと一言吐き出して調理室を走り出た。



怖さと驚きと…罪悪感に押し潰されそうになりながら…。
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