忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~



あの日の帰り道は忘れられ無い。




私の自転車を引く達也くんと二人無言で肩を並べて歩いた。

暮れかけた空はきれいな茜色。こんな時なのにキレイだな…なんて思ってしまった。

公園のところに差し掛かったとき
「未来ちゃん、ちょっとブランコにでも乗っていく?」
達也くんが優しく声をかけてくれた。

きっと話したいことがあるのだろうにおびえさせないようにブランコに乗ろうと誘う達也くんの優しさが身に染みる。

達也くんは公園の入り口に自転車を止め、いつものように手を繋いできた。
私はその手を無意識のうちに強く握ってしまっていた。


二人ならんでブランコに座る。
古ぼけたブランコは軽くこぐ度にキィ…キィ…と切ない音をたてた。

「未来ちゃん。俺ら別れようか。」

しばらくの沈黙の後、達也くんがわざと明るい声でそう言った。

(やっぱり…)胸がギュッとなる。

私は何も言えずうつむいた。長く伸びた髪の毛がサラサラと顔を隠す。

達也くんはブランコから降りて私の前にしゃがみ、そっと髪の毛をかき分け頬に手を添える。優しく、そっと…。

穏やかな、それでいて少し寂しそうな表情で目をのぞきこまれ、戸惑ってしまったが私もまっすぐ見つめ返した。

「未来ちゃん。俺、ホンマに未来ちゃんの事が好きだった。俺が未来ちゃんを守りたかった。じゃけん…ホントはどっかで薄々光への気持ちに気づいとったのに、気づかんふりしとった。ずるかろぉ?」

何も言えずフルフルと首を横に振る。

「…ふぅ。最後に…キスしてもええ?」
タメ息をつき切なそうにそう言うと優しく包み込むように頬に触れていた両手に少し力を入れて優しいキスをした。少しだけ長く…。

つっと頬に涙が伝った。

名残惜しそうに唇が離れたあと、そっと抱きしめられた。

安心できる胸のなかにすっぽりと包まれこれでホントに終わりなんだと思うと胸が締め付けられるような気がした。
それでも私が悪いのだ。優しさを利用しているつもりは無かったし、ホントに好きだったと思う。自分でもおかしいと分かっている。達也くんの事はホントに好きだった。それでも永井くんへの気持ちは押さえきれない何かがあって…言葉では言い表せない何かが…

「…ごめんなさい。達也くんのこと傷つけてしまって…」
やっと言えた。
達也くんは抱きしめた背中を優しくさすってくれる。

「ホンマは俺、離しとぉ無い。腕の中に閉じ込めて、自分だけの未来ちゃんにしたい。じゃけど…」そこまで言うと少し言葉につまり、私の肩におでこを押し付ける。
私も達也くんの服をキュッと握りしめる。

しばらく沈黙した後口を開いたのは私だった。

「達也くん。ごめんなさい。でも…うち、達也くんの事、好きだったよ。ホンマに。周りに気を使う優しさとか、まもってくれる安心感とか…。全部。 悪いのはうちじゃけん。」
抱きしめられたままポツリポツリとそう言った。
達也くんはそっと離れると私の頬の涙をスッとぬぐい、そのまま包み込むように頬に手をあてた。

「…この手が好き。」
達也くんの手に自分の手を重ねる。

しばらくそうしていたが、私の頬から手を離し、思い切ったように立ち上がった達也くんは穏やかに微笑んだ。

「未来ちゃん、ありがとう。じゃけど…俺ら今日で終わり。明日からはまた友達じゃ!」
明るい声でそう言い、右手を差し出してきた。

しばらく間をあけ、私も右手を差し出し、握手をする。

(この手を離したらそこでもう終わりだ。)
そう思うと握った手を離すことができなかった。

「未来ちゃんはホンマ可愛いなぁ」
フッと笑って達也くんの方から手を離した。

「じゃあ!また明日!」
軽く手を上げて走り去っていく達也くんの背中を見えなくなるまで見送った。

さっきまでこの手の中にあったぬくもりを思い出し涙が出る。
そのぬくもりを手放したのは自分だ…。
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