忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
夏 ~現在~
# 未来side
♯ 未来side
弟の健ににとって最後の夏を迎えていた。
夏大会の開会式の会場は沢山の選手や保護者達で賑わっている。
肌にまとわりつくような熱い風が肌をくすぐるようにして吹く。
高校二年生の、達也くんが怪我をしたあの日と同じ会場。同じ匂いがした。
私は額ににじむ汗を拭きながら人混みの中に健の姿を探してキョロキョロしていた。
「もしかして…後藤くんのお姉さんですか?」
ふいに声をかけられて驚きながら後ろを振り返ると、可愛らしい笑顔で「おはようございます!」と挨拶をする女の子がいた。
「…もしかしてあなたは…」練習試合で会った相手校のマネージャーの事を思い出した。
「お久しぶりです!」
屈託の無い笑顔がまぶしい。
「永井くんの…妹さん?」思わずそうたずねていた。
彼女は少しびっくりしたように目を丸めたがまた笑顔になり
「いいえ、光お兄ちゃんは兄の親友だった人で…」
(兄の親友?!もしかして…)胸がチクリとした。
「東山ユリです。」
(やっぱり…)背中に冷や汗が流れた。
「兄は高校卒業と同時に多分東京に行ったみたいなんですが…実はそれから音信不通みたいになってて…」少し暗い表情でそう話す。
同窓会幹事会の時の行方不明者名簿が頭をよぎった。
三年6組の欄にあった 長瀬唯 東山達也 の二人の名前。
「心配した光お兄ちゃんがそれからずっとうちの家族のこと心配してくれとって…」
そこまでユリちゃんが話したとき
「手のかかるわがままな妹のお世話は大変じゃけえなぁ」後ろから永井くんが現れた。その笑顔にドキッとする。
「もお!お兄ちゃん!ひどい~わがままじゃないし」
ほっぺを膨らませながら口を尖らせて言うその顔はとても可愛かったけど、どこか達也くんを思い出させる笑顔に胸がチクチクと痛んだ。
「あ、もう集合時間!じゃあ、また!」
ユリちゃんは制服のスカートを翻して大きく手を振りながらかけていった。
複雑な気持ちでその後ろ姿を見守っていると
「聞いてしもうた?達也のこと…。」
永井くんが心配そうにたずねる。
「うん。音信不通って…。」思わずうつむく。
(自分のせいかもしれん)そう思うと不安で押しつぶされそうになった。
コツン
おでこをはじかれ 顔を上げる。
永井くんだった。
「今、後藤さんが考えとること、当ててあげようか?」
「え?」はじかれたおでこをなでながら永井くんを見つめる。
「後藤さんの悪い癖!」
永井くんが腕組みをしながらため息交じりにそう言い、続けて「自分のせいじゃ、って思っとろう?! 後藤さんのせいじゃないけえ、安心して。」背の高い永井くんは少ししゃがんで私の目を見ながらそう言うと、頭をポンポンと軽くたたいた。
こんな感じ、久しぶり。高校三年の夏以来な気がする。
「おいおい~誰が音信不通なんなら」
懐かしすぎる声がした。
恐る恐る振り向くと、あの頃のままの笑顔で達也くんが立っていた。
「たっ、達也!お前!」
永井くんも驚いて達也くんに駆け寄り肩をつかんだ。
「悪りぃ~悪りぃ~」そんなに悪ぶるでも無く頭をかいている達也くんの顔を穴が空くほど見つめてしまった。
「お化けでも見るような顔をせんでよ」そう笑い飛ばす達也くん。
「お前なぁ!心配して当たり前じゃろお!10年以上連絡取れんて!」
「まぁまぁ…ゆっくり話そ!」
のんびり穏やかにそう言う達也くんは高校時代と少しも変わらない雰囲気をしていた。
自然と涙が頬を伝う。
私の涙を見た達也くんは流石に慌てた様子で、「光にはあとでゆっくり話すけぇ、ちょっと二人にしてくれるかな?」
達也くんは片手をかざして謝りながらそっと私の背中に手回し、人が少ない木陰へと連れて行った。
弟の健ににとって最後の夏を迎えていた。
夏大会の開会式の会場は沢山の選手や保護者達で賑わっている。
肌にまとわりつくような熱い風が肌をくすぐるようにして吹く。
高校二年生の、達也くんが怪我をしたあの日と同じ会場。同じ匂いがした。
私は額ににじむ汗を拭きながら人混みの中に健の姿を探してキョロキョロしていた。
「もしかして…後藤くんのお姉さんですか?」
ふいに声をかけられて驚きながら後ろを振り返ると、可愛らしい笑顔で「おはようございます!」と挨拶をする女の子がいた。
「…もしかしてあなたは…」練習試合で会った相手校のマネージャーの事を思い出した。
「お久しぶりです!」
屈託の無い笑顔がまぶしい。
「永井くんの…妹さん?」思わずそうたずねていた。
彼女は少しびっくりしたように目を丸めたがまた笑顔になり
「いいえ、光お兄ちゃんは兄の親友だった人で…」
(兄の親友?!もしかして…)胸がチクリとした。
「東山ユリです。」
(やっぱり…)背中に冷や汗が流れた。
「兄は高校卒業と同時に多分東京に行ったみたいなんですが…実はそれから音信不通みたいになってて…」少し暗い表情でそう話す。
同窓会幹事会の時の行方不明者名簿が頭をよぎった。
三年6組の欄にあった 長瀬唯 東山達也 の二人の名前。
「心配した光お兄ちゃんがそれからずっとうちの家族のこと心配してくれとって…」
そこまでユリちゃんが話したとき
「手のかかるわがままな妹のお世話は大変じゃけえなぁ」後ろから永井くんが現れた。その笑顔にドキッとする。
「もお!お兄ちゃん!ひどい~わがままじゃないし」
ほっぺを膨らませながら口を尖らせて言うその顔はとても可愛かったけど、どこか達也くんを思い出させる笑顔に胸がチクチクと痛んだ。
「あ、もう集合時間!じゃあ、また!」
ユリちゃんは制服のスカートを翻して大きく手を振りながらかけていった。
複雑な気持ちでその後ろ姿を見守っていると
「聞いてしもうた?達也のこと…。」
永井くんが心配そうにたずねる。
「うん。音信不通って…。」思わずうつむく。
(自分のせいかもしれん)そう思うと不安で押しつぶされそうになった。
コツン
おでこをはじかれ 顔を上げる。
永井くんだった。
「今、後藤さんが考えとること、当ててあげようか?」
「え?」はじかれたおでこをなでながら永井くんを見つめる。
「後藤さんの悪い癖!」
永井くんが腕組みをしながらため息交じりにそう言い、続けて「自分のせいじゃ、って思っとろう?! 後藤さんのせいじゃないけえ、安心して。」背の高い永井くんは少ししゃがんで私の目を見ながらそう言うと、頭をポンポンと軽くたたいた。
こんな感じ、久しぶり。高校三年の夏以来な気がする。
「おいおい~誰が音信不通なんなら」
懐かしすぎる声がした。
恐る恐る振り向くと、あの頃のままの笑顔で達也くんが立っていた。
「たっ、達也!お前!」
永井くんも驚いて達也くんに駆け寄り肩をつかんだ。
「悪りぃ~悪りぃ~」そんなに悪ぶるでも無く頭をかいている達也くんの顔を穴が空くほど見つめてしまった。
「お化けでも見るような顔をせんでよ」そう笑い飛ばす達也くん。
「お前なぁ!心配して当たり前じゃろお!10年以上連絡取れんて!」
「まぁまぁ…ゆっくり話そ!」
のんびり穏やかにそう言う達也くんは高校時代と少しも変わらない雰囲気をしていた。
自然と涙が頬を伝う。
私の涙を見た達也くんは流石に慌てた様子で、「光にはあとでゆっくり話すけぇ、ちょっと二人にしてくれるかな?」
達也くんは片手をかざして謝りながらそっと私の背中に手回し、人が少ない木陰へと連れて行った。