忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
「後藤さん…俺な、ずっと後藤さんのことが好きだった。高校生の頃から…」

(…!?)
あまりにも予想外れの言葉に驚き、肩がビクッとなった。

「もっと言えば、高校一年生の頃から…。でも、後藤さんには達也がおって、達也はおれにとって大事な…親友でもあり、バッテリーじゃったし…。」

頭の中はもうパニックでどう反応していいかも分からない。
思わず永井くんのポロシャツをギュッと力を込めて握りしめていた。

「…いや、そんなの言い訳じゃ。俺は自分に自信も無かったし気持ちを達也にも、後藤さんにも伝える勇気が無かった。それでも、あきらめきれんかった。何年経っても、俺の頭の中は後藤さんでいっぱいだった。あきらめきれんかったし忘れようと思おても忘れられんかった。」

最初は驚いてしまったが、永井くんの言葉は淡々としていて、それでいて思いがスッと伝わってきた。

永井くんが腕の力をフッと弱めたのがわかり、私は永井くんの胸に埋めていた顔を少し上げてみた。

私の肩に両手を当てて永井くんが顔をのぞき込んできた。表情を確かめるように…

嬉しいような、戸惑うようなこの気持ちをどう表していいか分からず、黙り込んでしまう。それでも永井くんから目が離せずにいた。

「再会したとき、嬉しかったし、もう一度ゆっくりと関係を作っていきたいと思っとった時、またあいつが現れて、正直焦った。後藤さんをまた持って行かれるんじゃ無いかって。けど、もう後悔しとうないけぇ。」

黙ってうなずくことしか出来ない自分に嫌気がさす。永井くんはこんなに正直に思いをぶつけてきてくれているのに。

「俺は後藤さんのことが今でも好きじゃ。大切で、守りたいって思っとる。これからの後藤さんの人生も、健の事も一緒に。」

うれし涙が頬をつたった。そんな風に思ってくれていたなんて知らなかったら。胸がいっぱいになった。
それでも何も言えずにただ コクコクとうなずくことしか出来ない。

「後藤さん、俺と…結婚してください!」

これまたあまりにも予想外過ぎる言葉に思わず両手で口を覆う。

両肩に当てていた手に力を込めた永井くんの顔がそっと近づく。とっさに目をとじた。
頬に柔らかい物がそっと触れる感覚。永井くんが涙を唇で拭くようにそっと頬にキスをしたのだった。

(えっ、えー!)

思考が固まってしまい微動だに出来なくなっていた。

永井くんもしどろもどろになり、肩に当てていた手をパッと離したかと思うと頭をかきながら一歩下がった。

「返事は明日でええけぇ。じゃ、また明日七時に迎えに来るけぇ。おっ、おやすみ!」

慌てて車に乗り込み、固まって動けなくなった私を玄関前に残したまま去っていってしまった。

(これは、都合のいい夢?)
そう思ったが右手できつく握りしめていたハンカチに気づき、夢ではない事がわかった。
ハンカチからさっき抱きしめられていた永井くんと同じ匂いがした。
(夢じゃ無いんだ…)

やっと嬉しさがこみ上げてきた。
< 97 / 108 >

この作品をシェア

pagetop