忘れるための時間 始めるための時間 ~すれ違う想い~
# 光side
いつもより車を飛ばしてしまう。
あんな事、今日言うつもり無かったのに。
戸惑っているような後藤さんの顔がふと頭をよぎり、後悔が溢れる。
バン!強くハンドルを叩いた。
そんなことをしても時は戻ってこないのは分かっている。
「ハァ…」大きなため息をつき、(このままでは事故してしまう。)そう思って自動販売機がある公園の入り口に車を寄せて止まった。
自動販売機でブラックコーヒーを買い、グビッと一口飲む。さっき入れてもらった後藤さんの美味しいコーヒーとの味の差にそれ以上飲む気になれず冷たい缶でこめかみを冷やした。
(俺、やらかしたかもしれん)
不安にさいなまれ、思わずスマートフォンを手に取り達也に電話した。
「達也…俺…やらかしてしもうたかもしれん…」
そう言った俺の第一声と声色を心配した達也が居場所をたずねて駆けつけて来てくれた。
どこまでも優しいやつだと思う。こいつにはかなわない、そう思う…やっぱり。
車を公園の駐車場に止め、達也と二人何となくブランコに座った。
キィ キィ…
悲し気な音を立てて動くブランコにしばらく乗り、黙り込んだままの俺に業を煮やした達也が口を開いた。
「ほんで、何やらかしたん?そんな落ち込むこと?」
優しい口調に少し落ち着く。
「おぉ…。」
「あの後ちゃんとグローブ届けたんじゃろ?未来ちゃんには会えんかったん?」
「いや…それが…」
優しくたずねてくれる達也の顔を見ることはできず、足元を見つめながらことの顛末を話した。
「はぁ? 何で?」達也は半ば呆れたように言う。「そこはチューするとこじゃろ?!流的に!」
達也の言葉に思わずむせて咳き込んでしまう。
「ゲホッ、ゲホッ、ちゅ、チューってお前!」
「チューくらいでそんなにあわてるな!今時中学生でもしとるで。」
「中学生?!早すぎじゃろ!」
「問題はそこじゃのおて、その話し聞いただけじゃあ何をやらかしたんかわからん。ウブにも程があるじゃろ。小学生かっつーの。」
驚く俺に畳み掛ける。
「ほんでも、別れ際の後藤さんの戸惑った表情とか思い出したら…付き合ってくださいの前に何で結婚じゃやこ口にしたんか。後藤さんの気持ちもわからんのに、何で俺はそんなこと言ってしもぉたんか…俺はアホじゃ。絶対にやらかした!」
思い出したらまたカッと頭に血がのぼり顔が赤くなるのを感じ、両手で頭を抱え込んだ。
「いゃ、そりゃ…ほんでもよぉ言うた!そう思うで。」
達也が慰めるようにそう言い顔を覗き込んだ。
「けど、まぁ、そこは口にチューして欲しかったな ハッハッハ!」
「からかうなや!マジで俺はいっぱいいっぱいで…」
さっきまで笑っていた達也が急に無言になった。気になった俺はふと達也の方を向くと何かに思いをはせているような表情で前を向きながら軽くブランコをこいでいた。
「…達也?」
「ん?あ、あぁ ごめんごめん。」
やはり元カノのに告白した話しなんて聞きたくないか… 少し後悔した。
「いや、ここな…俺と未来ちゃんが別れ話した場所なんよ。」
達也の言葉に胸がひっくり返るほどドキッとした。
そんな大切な場所で何て話をしてしまったのだろう。また後悔が頭をよぎった。
「あの頃、俺はホンマに未来ちゃんの事好きだったなぁ…大切で…その気持ちは変わってないわぁ、今でもな。」
「…。」何も言えずうつ向く。
「そんな、暗い顔すんなや!もう何年も前の事じゃ。もう…15年かぁ。」
「おぉ、15年じゃ。けど、時間がたったかどうかは関係無いじゃろ。お前の好きだった人に手を出そうとするなんて…最低じゃ。」
「フッ。相変わらず真面目じゃの、お前は。俺は…未来ちゃんの優しさ利用して、ホントに好きな人がおること薄々気づいておきながらつき合っとったし。」
「はぁ?後藤さん、達也以外に好きな人おったん?!」達也の思わぬ言葉に驚いた。あんなにお似合だ思っていたのに。お互いに信頼しきって、信じあって…
「…明日聞いてみ、未来ちゃんに。」
心なしか呆れているような達也の表情。
「達也の気持ち知っとりながら気持ちは何年たっても消えんかった。押さえきれんかった…この15年…」
「15年かぁ…長かったような、あっという間だったような、じゃな。」
達也がしみじみ言う。
「おぉ…」
「まぁ、この15年は俺らにとっては必要な時間だったんじゃろ。な?」
「必要な…時間…」
「そぉじゃ。必要な時間。忘れるためにも…始めるためにも!」
達也の言葉が胸に染みる。
バシッ 背中を叩かれた。
「痛ってぇ!」
達也はブランコを降りそのまま歩き出し前を向いたまま話し出す。
「光、ええこと教えちゃる!俺と未来ちゃんはな、ほんの数える程キスしただけで、その先は何も無いけぇ!」
「えっ?えー?!」
あわてて後を追いかける。
「ホンマに、中学生かっつー付き合いしかして無い!じゃけぇ気にするな!じゃ、明日頑張れよ!」
達也は振り向いてそう言ったかと思うと自分の車に乗って走り去って行った。
後藤さんに達也以外に好きな人が?
ほんの数回のキス以外に何も無い?
その事が頭をグルグル回っていた。
まだ生ぬるい夏の夜の風が吹き抜けた。
明日もまた暑いだろう。
今夜は眠れる気がしなくなってまた溜め息をひとつついた。
あんな事、今日言うつもり無かったのに。
戸惑っているような後藤さんの顔がふと頭をよぎり、後悔が溢れる。
バン!強くハンドルを叩いた。
そんなことをしても時は戻ってこないのは分かっている。
「ハァ…」大きなため息をつき、(このままでは事故してしまう。)そう思って自動販売機がある公園の入り口に車を寄せて止まった。
自動販売機でブラックコーヒーを買い、グビッと一口飲む。さっき入れてもらった後藤さんの美味しいコーヒーとの味の差にそれ以上飲む気になれず冷たい缶でこめかみを冷やした。
(俺、やらかしたかもしれん)
不安にさいなまれ、思わずスマートフォンを手に取り達也に電話した。
「達也…俺…やらかしてしもうたかもしれん…」
そう言った俺の第一声と声色を心配した達也が居場所をたずねて駆けつけて来てくれた。
どこまでも優しいやつだと思う。こいつにはかなわない、そう思う…やっぱり。
車を公園の駐車場に止め、達也と二人何となくブランコに座った。
キィ キィ…
悲し気な音を立てて動くブランコにしばらく乗り、黙り込んだままの俺に業を煮やした達也が口を開いた。
「ほんで、何やらかしたん?そんな落ち込むこと?」
優しい口調に少し落ち着く。
「おぉ…。」
「あの後ちゃんとグローブ届けたんじゃろ?未来ちゃんには会えんかったん?」
「いや…それが…」
優しくたずねてくれる達也の顔を見ることはできず、足元を見つめながらことの顛末を話した。
「はぁ? 何で?」達也は半ば呆れたように言う。「そこはチューするとこじゃろ?!流的に!」
達也の言葉に思わずむせて咳き込んでしまう。
「ゲホッ、ゲホッ、ちゅ、チューってお前!」
「チューくらいでそんなにあわてるな!今時中学生でもしとるで。」
「中学生?!早すぎじゃろ!」
「問題はそこじゃのおて、その話し聞いただけじゃあ何をやらかしたんかわからん。ウブにも程があるじゃろ。小学生かっつーの。」
驚く俺に畳み掛ける。
「ほんでも、別れ際の後藤さんの戸惑った表情とか思い出したら…付き合ってくださいの前に何で結婚じゃやこ口にしたんか。後藤さんの気持ちもわからんのに、何で俺はそんなこと言ってしもぉたんか…俺はアホじゃ。絶対にやらかした!」
思い出したらまたカッと頭に血がのぼり顔が赤くなるのを感じ、両手で頭を抱え込んだ。
「いゃ、そりゃ…ほんでもよぉ言うた!そう思うで。」
達也が慰めるようにそう言い顔を覗き込んだ。
「けど、まぁ、そこは口にチューして欲しかったな ハッハッハ!」
「からかうなや!マジで俺はいっぱいいっぱいで…」
さっきまで笑っていた達也が急に無言になった。気になった俺はふと達也の方を向くと何かに思いをはせているような表情で前を向きながら軽くブランコをこいでいた。
「…達也?」
「ん?あ、あぁ ごめんごめん。」
やはり元カノのに告白した話しなんて聞きたくないか… 少し後悔した。
「いや、ここな…俺と未来ちゃんが別れ話した場所なんよ。」
達也の言葉に胸がひっくり返るほどドキッとした。
そんな大切な場所で何て話をしてしまったのだろう。また後悔が頭をよぎった。
「あの頃、俺はホンマに未来ちゃんの事好きだったなぁ…大切で…その気持ちは変わってないわぁ、今でもな。」
「…。」何も言えずうつ向く。
「そんな、暗い顔すんなや!もう何年も前の事じゃ。もう…15年かぁ。」
「おぉ、15年じゃ。けど、時間がたったかどうかは関係無いじゃろ。お前の好きだった人に手を出そうとするなんて…最低じゃ。」
「フッ。相変わらず真面目じゃの、お前は。俺は…未来ちゃんの優しさ利用して、ホントに好きな人がおること薄々気づいておきながらつき合っとったし。」
「はぁ?後藤さん、達也以外に好きな人おったん?!」達也の思わぬ言葉に驚いた。あんなにお似合だ思っていたのに。お互いに信頼しきって、信じあって…
「…明日聞いてみ、未来ちゃんに。」
心なしか呆れているような達也の表情。
「達也の気持ち知っとりながら気持ちは何年たっても消えんかった。押さえきれんかった…この15年…」
「15年かぁ…長かったような、あっという間だったような、じゃな。」
達也がしみじみ言う。
「おぉ…」
「まぁ、この15年は俺らにとっては必要な時間だったんじゃろ。な?」
「必要な…時間…」
「そぉじゃ。必要な時間。忘れるためにも…始めるためにも!」
達也の言葉が胸に染みる。
バシッ 背中を叩かれた。
「痛ってぇ!」
達也はブランコを降りそのまま歩き出し前を向いたまま話し出す。
「光、ええこと教えちゃる!俺と未来ちゃんはな、ほんの数える程キスしただけで、その先は何も無いけぇ!」
「えっ?えー?!」
あわてて後を追いかける。
「ホンマに、中学生かっつー付き合いしかして無い!じゃけぇ気にするな!じゃ、明日頑張れよ!」
達也は振り向いてそう言ったかと思うと自分の車に乗って走り去って行った。
後藤さんに達也以外に好きな人が?
ほんの数回のキス以外に何も無い?
その事が頭をグルグル回っていた。
まだ生ぬるい夏の夜の風が吹き抜けた。
明日もまた暑いだろう。
今夜は眠れる気がしなくなってまた溜め息をひとつついた。