おやすみのキスがないと眠れない。
だって、今振り向いたら、それこそ普通に話せない。
他のクラスも、ホームルームは終わっているので、帰る人だったり、部活に行く人で廊下にはたくさんの人が溢れている。
私達はその合間を縫って昇降口に向かった。
「うわ......やっぱり、雨酷くなってる」
靴を履き替え、気が重いまま傘を開いた。
すぐ隣で靴を履き替えた圭人も、外を見て、嫌そうな顔をする。
「圭人?傘出さないの?」
圭人を待っていたのに、その本人は一向に傘を開く気配がない。
さっき教室では持っていたのに、今は何故か手ぶらだった。
すぐ使うのに、わざわざ仕舞ったのかな?
「ん?傘ないから俺もいれて?」
えっ?さっき持ってなかった......?見間違い?
「さっき折りたたみ傘持ってなかった?」
「あー......壊れた」
何故か、気まずそうに視線を逸らしている。
ーー絶対嘘だ。
教室を出てから、1度も開いていないのに壊れるはずがない。