冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい
ドクンと心臓が鈍く鳴った。
冷や汗どころじゃない。
平和に包まれていたはずのアルソートが、占領の危機にさらされているのだ。大国同士の争いともなれば、被害は計り知れない。
舌打ちをしたドレイクさんが低く唸る。
「こんな緊急事態に、あの外交官は何やってんだ?ダルトンは隣国に多くのツテがあるはずだ。あいつの力でなんとか説得できないのか?」
「今、エルネス大臣が連絡を取ろうとしているが、所在も掴めないらしい。ここ一ヶ月はアルソート国内にいるはずなんだが」
アスランの答えに納得がいかない様子のドレイクさん。
ハルトヴィッヒ王らとも面識があるダルトンさんがいれば状況は変わったかもしれないが、その望みは薄そうだ。城に飛んで帰ってもおかしくなさそうなのに、まだ情報が耳に入っていないのか?
すると、書斎にレウル様の声が響いた。
「ドレイク。エルネスとともに、国境の住民を城下町の宿屋や騎士団寮の空き室に迎えるよう手配してくれ。アスランはすぐに騎士を集めて出撃準備を始めるんだ。城の警備に一部隊を残し、その他の騎士団を連れて隣国の兵を迎え撃つ。指揮は俺が取ろう」
素早く指示を出したその表情は、覚悟を決めた王の顔だった。
「夜明け前に城を出る」