冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい
それぞれが開戦に備える中、いつもの黒手袋をつけたドレイクさんが、ひとり黒馬にまたがった。
「ドレイク。頼んだぞ」
「えぇ。主の期待に応えてみせます」
多くは語らず日の出に背を向け、夜の闇を追いかけるように森へと消えていく黒馬。
見送るレウル様にそっと尋ねた。
「ドレイクさんは単独で行動するのですか?」
「ああ。今後、頼んだ仕事がうまくいくかどうかが鍵になる」
すべてが動きだしている。
まるで革命期に立ち戻ったように、誰も想像していなかった歴史が始まろうとしているのだ。
『勝利の女神になってくれるか?』
レウル様の声が頭の中で響く。
なってみせます。
少しでも役に立てるのなら、力の全てを捧げます。
平和を願う祖国の汚名を晴らし、生きる意味をくれたあなたを支えるために。
「陛下。偵察部隊から、隣国の兵が東の川を越えたとの電報が入りました」
アスランの緊迫した声に、レウル様は小さく頷く。
「行くぞ」
覚悟の込められた短い言葉が、予測不能の未来につながる開戦の合図であった。