冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい
見ると、右足のすねに血が滲んでいた。素早く頷くが、騎士団員は動揺したように首を横に振っている。
「いえ、先に陛下の傷を。私は後でも大丈夫ですので」
どうやらレウル様も傷を負っているようだ。私には見えないよう、マントで隠しているらしい。表情ひとつ変えない陛下に不安が募る。
しかし、当の本人は安心させるように微笑を浮かべ、騎士団員に向かって答えた。
「いいんだ。俺の傷は浅い。戦地では重症度で治療の優先順位を決めるものだ」
「でも、あなたは軍を率いるお方で」
「俺と君に差なんてないさ。今は、自分の傷を治す事だけを考えなさい。ランシュア、任せるぞ」
流れるように騎士を預けてテントを出ていく陛下。
どこにいても、あの人は変わらない。
戦場についてきた騎士たちは、国を守るためだけでなく、あの背中を見て君主への忠誠を誓う。
無事を願う国民も、ここにいる臣下たちも皆、レウル様が私怨のために商船へ砲撃するような人ではないとわかっている。だからこそ、アルソートの潔白を信じて陛下の指示を聞くのだ。