冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい
アルソートは二十五年前まで私利私欲にまみれた王族の支配下にあり、独裁を敷いてきた当時の王をクロウィド陛下の父が討って革命が成った。
そして現在、国の方針の決定権は王にあるものの、民衆から選抜された地域ごとの長が議会をつくり、その過半数以上が可決しなければ法案や条例が通らなくなったのだ。
先代の王の後を継いだクロウィド陛下は特に民の意見を尊重する政策に力を入れており、国民からの人望が厚い上にこの見た目。
天は二物を与えずとは言うが、彼は例外である。
世の女性が騒ぐほど端正な顔立ちは、目が合っただけで恋に落ちるほどの魅力があり、仮面のような微笑がデフォルトらしい。
「俺に結婚する気はないって、いつも言っているのに」
「そうおっしゃらず。“今回は”お気に召すかもしれません」
陛下と大臣の会話は何度も繰り返されたやりとりなのだろう。なんせ、私は十三番目の妃候補なのだから。
「ランシュア……だったか?今から言うことをよく聞いて」
クロウィド陛下は肘をついたままさらりと告げた。
「君に与えるのは一週間。期日までに俺をその気にできなければ、城から出て行ってもらう。いいな?」
噂通りのセリフ。
彼は政略結婚を望む相手に一週間の見定め期間を提示し、お眼鏡にかなわなかった女性を全員追い出してきたのである。
『今日で夫婦ごっこは終わり。約束通り、手配した馬車で帰ってくれ』
そんな血も涙もない言葉を突きつけられた女性が十二人いる、という現実が重くのしかかった。
そもそも結婚に乗り気ではないこの人は、本気で相手を見定めるつもりも、特別な感情を持つ気もないようだ。
でも、愛なんてなくたっていい。
私はビジネスのためにここへ連れてこられたのだから。