冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい
凍てついた心が溶けるように、言葉にならない思いが涙となって溢れた。次々と流れ落ちる滴は止められない。
包み込むように優しく抱き寄せられる。気づかいながら回された手は、子どもをあやすように背中を撫でてくれた。
「すまない。ハンカチ代わりに俺のシャツで我慢してくれ」
この人はいつも飄々としていてなにを考えているのかも教えてくれない、自分に近づく者を辛辣な言葉の刺で拒絶する青い薔薇。
でも、抱きしめる腕はこんなにも優しい。
「ランシュア。見定め期間、延長してもいいか」
耳元で聞こえた、ねだるような声。
お願いをする口ぶりだが、きっとこちらが断れないとわかっている。
「延長?妃として迎えてくださるわけではなく?」
「ああ。夫婦の契約は交わさない。俺は妻が欲しいわけじゃないし、君が嫌になったらいつでも逃げ出せるように」
この人は、結局甘い。
こちらの気持ちなんて優先しなくてもいいのに。
「延長っていつまでですか?」
「俺の気が変わるまで、かな」
ううん。やっぱり甘いだけじゃないな。私は振り回されてばかり。
風のように自由で猫のように気まぐれで、簡単には手に負えない。素直に気持ちを伝えてくれたと思っても、微笑みの仮面の裏はまだ少ししか見せていないのだろう。
だが、提案に乗る以外の選択肢は選べない。屋敷に戻れない今、他に帰るところはないのだから。
小さく頷くと、抱きしめられる腕に優しく力がこもった。