だからきみを離してあげる
ばいばい、夏



「ねえ、食べる?」

入道雲が見えている教室のベランダ。私は手すりに寄りかかってポッキーを食べていた。

「珍しいね。(さくら)がお菓子買うなんて」

「違うよ。もらったの。私たちの記念日とかで」

「そうなんだ。じゃあ、一本もらうね」


彼の名前は安田(やすだ)千夏(ちなつ)。あだ名は夏。

女の子みたいな名前のとおり、全体的に色素が薄くて、カッコいいというより綺麗な夏は、ポッキーも私より可愛く食べる。

夏休みを目の前にして、慌てて彼氏や彼女を作ろうと(さか)っている生徒を横目に、私たちは今月で三年目を迎えた。

他人から見れば熟年カップルのような余裕が漂い、恋人というより夫婦みたいだよね、と言われるほど、いつも一緒にいる。

初々しさの欠片(かけら)もなく、三年という大切な節目に、人からもらったポッキーでお祝いを済まそうとしても、夏は文句ひとつ言わない。

以心伝心といえば聞こえはいいかもしれないけれど、私たちは言葉にしなくても、分かり合っている。

私は夏に大きなことを求めていない。

夏だって、そうだと思う。

キスをしたり、ベタベタと触り合ったりしなくても、こうして7月の空の下で日光浴をしてる時間が私は一番落ち着く。

< 1 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop