だからきみを離してあげる



子分なんて言わないから、ボスになんてならなくていいから、夏と出逢い直させてくれたらいいのに。

そんな想いが駆けめぐっていたけれど、私の口から出た言葉は……。


「私から離れてもいいよ、夏」


以心伝心なんて、ロクなもんじゃないよ。

だって、視線だけで、夏があの女の子に恋をしてることがわかる。

向こうも中庭から、ちらちらと夏のことを見ていた。

夏のことを好きだという気持ちが、女の子からもひしひしと伝わってくる。


「夏もあの子のことが好きなんでしょ?」


きっと、周りはこれを浮気だと言うのだろう。

彼女がいるのに、他の子を好きになった夏のことを。

私がいるのに、その気持ちをぜんぶあの子に向けている夏のことを、最低だと言う人もいるかもしれない。 


でも、私は夏を責めることはできない。
 
だって、夏は浮わついた気持ちなんかじゃないから。

いつも誠実で、まっすぐで、私が強いことを言ったって、夏はいつでも優しかった。

甘えていた。

癒されていた。

居場所にしていた。

きみが私のあとを付いてくるようになった、あの夏の日から。

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