だからきみを離してあげる
「桜……」
夏が、切ない声で私の名前を呼んだ。
「いいんだよ、夏。自分で決めて、いいんだよ」
思えば私は今までなにひとつ、夏に決めさせなかった。
子分になれと言った時も、
周りが付き合ってると言い始めた時も、
私が、ぜんぶ、夏の気持ちなんて聞かずに、押しきった。
千夏なのに、〝夏〟が全然似合わない夏。
爽やかであるけれど、日射しに弱いし。
アイスを食べるとすぐにお腹も壊すし。
海で遊ぶよりコタツでミカンを食べたいって、じじくさいことを言う。
夏よりも冬って感じで。
男っていうより男の子って感じで。
弱くて、泣き虫で、優しすぎる夏だけど、もう私が守らなくてもいいのだ。
夏は、誰かを守りたいと思えるようになったのだから。