だからきみを離してあげる
「さっき桜は付き合おうって話にならなかったって言ったけど、俺は桜のこと彼女だと思ってたよ。なんにもしなかったけど、ちゃんと好きだった。この三年間、ずっと」
「私もだよ、バカ」
でも、もういいんだ。
私がいないとダメだった夏が、男の子じゃなくて、男になった。
夏は離れていかないだろうと。
離れる勇気なんてないだろうと、きみの優しさを利用して縛っていた。
だから、きみのことを今、離してあげる。
「今度は男らしく、夏があの子のことを引っ張ってあげるんだよ」
私を置いていくんだから、誰よりも幸せにならなきゃ許さない。
「ありがとう。ありがとう、桜」
私の後ろを歩くだけだった夏は、自分で決めてあの子の元へと走り出す。
なんだよ。その背中カッコいいじゃん。
ひとりになった。
風がよく通る。
涙が少し流れた。
それでも、心は前を向いていた――。
〈END〉