その男、イケメンエリートにつき冷酷そして甘党
「健太郎様、ここにジュースを置いておきますね」
それはベトナムに住んでいた頃の部屋の風景。
僕がベッドに寝転んで本を読んでいると、ファムさんが大好きなカルピスを持って来てくれた。
「ファムさん、話があるからここに座って」
僕はそう言うと、僕の椅子にファムさんを座らせる。
「まあ、何でしょう」
ファムさんは嬉しそうだ。
僕の事をいつも温かいまなざしで包み込んでくれる。
「僕は、将来、ロビンと結婚するから。
先にファムさんの許しをもらっておこうと思って」
ファムさんは口に手を当てて驚いている。
「許しも何も、ロビンと健太郎様は…」
「身分と家柄とか、そんな事全く関係ないから。
僕はそんなものに興味はないし、こだわらない。
だから、将来は本物の家族になるからよろしくね」
ファムさんは目を丸くして首を横にふるだけ。
「ロビンはさ、嫌だとか言うかもしれないけど、ファムさん、その時は僕の味方になってね。
約束だよ」
ファムさんは大きな瞳に涙を溜めて、困ったように頷いてくれた。
「健太郎様…
ロビンの事を好きでいてくれて、本当にありがとう…」
切り取られてしまっていた僕の幼い頃の記憶は、不思議と今この場所で呼び起こされた。
はっきりと、僕の中で蘇る。
あの時の空気感とファムさんの笑顔。
健太郎は隣を歩くロビンの肩を強く抱きしめる。
僕達の物語はきっと生まれる前から始まっていた。
たくさんの絆が寄り添って、今の僕達がいる。
健太郎は胸に揺れるロザリオをそっと握りしめた。
ファムさんとの約束を守れた事を、誇りに思いながら。
the end