想い出
第四章
 十年後……

 緑の葉を着飾った木々たちが音を立てながら風に揺れ、その音が耳をくすぶる。

「ママ。見て見て。こんなに上手に出来たよ!」

 小さな手で花冠を差し出してくる小さな女の子。この子が私の愛する子だ。

「すごいね。ママにも作って」

「うん!」

 この手を、この声を失わないために今日を生きる。私はそう決めた。

「ずいぶん成長したな。産まれた時はあんなに小さくて心配していたのに」

 隣でそっと微笑むもう一人の愛する人。

「そうね。もう今日で五歳か」

 そう、今日この日は私の愛する人が生まれた日。私の娘。
そして、隣にいるのは五年前に結婚した私のもう一人の愛する人。

私は今日を生きることを選んだ。

十年前のあの日、もう一人。忘れられない人との別れを機に選んだ道。

「ごめん。ちょっと行ってきていいかな」

「いいよ。行っておいで。結衣」

 そういって私は小さな草花に囲まれたレジャーシートから離れた。
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