想い出
 数分経っても、僕はその場に居続けた。

もう動く力もなかったからだろう。

反対側にあるベンチを眺めていると、一人の白いブラウスと黄色いスカートをはいた女性が、茶色掛かった髪を揺らしてベンチに座った。

彼女の顔が好みとか、彼女に一目ぼれしたわけでもない。

けれど、目が離せなかった。

自分の心の底からくる感情がわからないまま、彼女を見続けた。

自分の髪をなびかせる優しい風が吹いたとき、彼女は僕を見た。

綺麗で澄んだ瞳だった。

だけど、その瞳からは、なぜだか寂しさを隠しているようにも見えた。

彼女が鞄を持ち直して、こちらに歩いてきた。

でも、彼女にはきっと僕が見えていない。

きっと、僕は死んだんだ……

彼女を見て、はっきりした。

僕は実際には存在していない。

だからきっと、彼女も僕の前から消えていく。

何事もなかったかのように……
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