想い出
 あの日から一週間が過ぎただろうか。

身寄りも、記憶もない僕を彼女は家においてくれた。

死んでいるはずの僕を。彼女は僕にこう言った。
「待ち続けている人がいるの。きっと帰ってきてくれるって信じてる。だから、あなたを疑わない。あなたのように帰ってきてくれる人がいるのだから。」

 彼女は20歳。大学に通うごく普通の女子大生だ。

けれど、五年前に幼馴染でもあった恋人を亡くした。

今でもずっとその彼を探し続けている。

彼は病気で、15になる年は外に出られなかった。それでも彼女はずっと彼を見守り続けた。

でも、不運なことに15になった彼は新しい年が始まったというところでこの世から去ってしまった。

彼女は僕に彼の話をよくしてくれる。

不器用で上手く言葉に表せない。冷静な人なのに、自分のことがよくわからない。
まるで、僕みたいな人だと彼女は言う。

だから、見捨てられない。そういうことなのだろう。僕と彼は似ている。

だから、彼の代わりにはならなくても彼の帰りを待つ彼女には僕は希望でしかない。

それは僕の存在価値を示しているようにも感じられた。
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