パパにせんぶあげる。

教室に入ると、すぐに(まい)ちゃんと(もえ)ちゃんが駆け寄ってきた。二人は、普段特に仲のいい友だちだ。

「ちょっとちょっと花音ちゃーん、窓から見えてましたよー」
「冬樹会長と手を繋ぎながら登校してくるなんて、なかなかやるじゃないのー」
「そ、そんなんじゃないよ! 冬樹くんはただの幼馴染だってば!」

二人は「ふうん」と、ニヤニヤといやな笑みを浮かべる。この顔は明らかに信じていない。

「これは詳しく話を聞かないとですねーっ!」
「花音ちゃん、今日の放課後は覚悟しときなさいよ!」
「もうっ、やめてよ二人ともっ!」

始業のチャイムが鳴り響く。授業が始まると、賑やかな教室は途端に静まり返り、誰もが黒板に向かい、授業内容に集中していた。
この教室には、小学部から中学部への進級時に行われたテストの成績優秀者が集められている。わたしと、舞ちゃんと萌ちゃんは、特進クラス1年生。冬樹くんは同じ校舎の上の階の特進クラス3年生だ。
学園では"泣く子も黙る特進クラス"と呼ばれ、わたしたち特進生は、学校施設や、部活動、制服のデザインまで普通科と完全に区別化されている。

「もーっ、先生たち宿題出しすぎだよーっ。疲れたーっ、腰いたーいっ」
「これじゃ中間テストの勉強どころじゃないわね…」

放課後、学校の図書館で宿題を終わらせたあと、わたしたちは近くのカフェで休憩がてらお茶会をしていた。

「あっ、てかてか!花音ちゃんはぶっちゃけ冬樹会長のこと、どう思ってるんですかー?」
「会長は絶対に花音ちゃんのこと好きだと思うわよ? 」
「ええっ? そうなのっ? 」

わたしは危うく紅茶をこぼしかけた。そんなわたしに、舞ちゃんと萌ちゃんは目を丸くする。

「もしかして、気付いてなかったの? 」
「気付くも何も、どうして冬樹くんがわたしを…? 」
「なぜなのっ!あんな積極的なアプローチを受けておきながらっ! 」

7歳の頃、パパの再婚をきっかけにわたしは日本にやって来た。そして初めて出来た友だちが、家の近所に住んでいた冬樹くんだった。
優しくてしっかり者で、わたしにとって冬樹くんは、頼れるお兄ちゃんみたいな存在だった。そのせいか、これまで一度も冬樹くんを男の子として意識したことはない。

「学園一の秀才と、良家のお嬢様なんてぴったり過ぎるカップルじゃなーい! 」
「うんうんー。花音ってすっごくかわいいしー、ぜったいいけるってー。告白しちゃいなよー」
「ちょっと、二人とも! 本当にわたしと冬樹くんはそんなんじゃないんだってば!」

わたしを置いて勝手に盛り上がり始めた二人を必死に制止していると、突然、テーブルの上のわたしの携帯電話が震え始めた。
そしてタイミング悪く画面には、「冬樹くん」の文字が表示されていた。
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